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1章

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    白目をむいて倒れた父は、翌日豪華な王家の馬車で丁重に送られて帰ってきた。三日間の休暇付きで。

    そして今私は、窓の外を哀愁漂う目で眺める父と、父が王宮から持たされた菓子を美味しそうに頬張る姉と、向かい合って現在私が置かれている状況確認をしていた。

    「だからまとめると、シャルル王子に舌入れられて唾液を吸われて、それを知ったユリシス王子が焼きもち妬いて押し倒されて、更にすごいキスしてきたって事でしょ?」

    やめてお姉さま。お父様が灰になる。

    「で、マリーはどっちが良いの?」

    「ど、どっちって……そんな事考えた事も無かったし、そもそも私がユリシス王子の婚約者候補ってどういう事なのお父様?」

    お父様がゆっくりと私に視線を向けるなり“うぅっ”と涙ぐんだ。そりゃ引きずるほどショックだっただろう。泣きたいだけ泣いてくれ。

    しばらくして父がボソボソと話し出した。

    「オットーの騒ぎのあと、ユリシス王子に呼ばれたんだ。マリーと会いたいってね。うちには王子と同い年のオデットもいるのに、王子はマリーをと言うんだ。」

    オデットなら万が一何かあっても王子を撃退するだろうと思って薦めてみたんだけどね……と言うと、その万が一の事態をまた思い出したのだろう。ハンカチ広げてメソメソ泣き出した。

    「……それで、シャルル王子とも仲良くしてるって聞いたから、社交が苦手なマリーには良かったかもと思っていたんだよ……。でも前回のお茶会の後、王子が珍しく不機嫌な顔をして僕のところへやってきて、マリーを婚約者にするって言うんだ……。」

    お茶会の後って……シャルル王子とチェスをして、すごく長い時間キスしてたあの時よね……。

    「そうそう、あの日あんた王家の馬車で送られてきたでしょ?うちの執事がお礼を言ったら“とんでもございません。王子の大切な婚約者候補の方ですから”って言われたんだってさ。」

    何なのその御者への伝達の早さ。しかも婚約者を決めるって幸せな事じゃないの?それなのに不機嫌な顔してたってどういう………

    「あんた、もしかして見られちゃったんじゃないの~??」

    オデットがニターっと笑う。

    「見られた?誰に?何を?」

    「だからぁ、ユリシス王子に、シャルル王子からあんたが長~い長~いキスされてるところを。」




    【……ダメだよマリー。シャルルに先に許すなんて。】


    ……あれって……侍女から告げ口されたのかと思ってたんだけど……でもこのスピード感を考えると……もしかしてユリシス王子に見られてたの!?

    お父様……今私、倒れたお父様の気持ちが死ぬほどわかります……



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