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1章

6ー2 シャルル

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    イネスが僕のところにきて二年が経とうとしていたある日、見慣れた景色が少し変わる。

    「ねぇ、知らない者が増えてるんだけど、誰あれ?」

    侍女にそう聞くと、国王陛下が王宮に護衛を増やしたのだと言われた。でもおかしいよ。明らかに【増やした】って数じゃないもん。
    その日から、夜は静かだった王宮にはいつも火が灯り、回廊を慌ただしく何人もが駆ける音がする。
    それだけじゃない。この二年の間、一度も休んだ事のないイネスが顔を見せなくなった。

    「ねぇ、イネスはどうしたの?なんで休んでるの?」

    そう聞いても侍女からは【わかりません】としか返ってこない。父上も兄上も執務室に籠って出てこない。
    母上なら何か知っているかもしれないと思ったが、僕を産んでから体調を崩す事の多くなった母上は、やはり今も伏せっている。

    何が起こっているんだろう。イネスは大丈夫だろうか。外はひどい雨が降っていた。





*************






    「……さま……………ルル様……」

    僕を呼ぶ声の方に顔を向けると、薄明かりの中イネスがいた。

    「イネス!!イネスどうし……むぐっ!」

    シーッとイネスは指を口にあてる。
    イネスの服は濡れていた。もしかしてこの雨の中会いにきてくれたのだろうか。でもなんでこんな夜中に?

    「イネス、とりあえず身体を拭いて?今何か拭くものを……」

    起き上がろうとしたらまたイネスに押さえつけられた。あれ?イネスお化粧してるの?いつもの薄化粧じゃない。唇にのせられた紅の色が、暗闇でいっそう妖しく目立つ。

    「……イネス……?」

    いつものイネスじゃない。イネスはその細い腕で僕の両肩を押さえ付け、僕の身体の上に跨がってきた。

    「……シャルル様……イネスはシャルル様をお慕いしておりました……どうか、どうか一度だけイネスに夢を見せて下さいませ……。」



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