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 「け、結婚!?私とエリアス殿下がですか!?」

 エリアス王子の口から飛び出した想定外すぎる言葉に私は動揺し、ばあやは後ろでティーポットを割りました。
 
 「ええ。アンネリーエ殿下にとっては突然で驚かれたと思うのですが……私のこの気持ちはずっと以前からのもので……」

 エリアス王子の様子を見る限り、嘘をついているようには思えません。
 ですがあまりに唐突すぎて、私は返す言葉が見つかりませんでした。

 ──驚いたわ……

 先見の力で視た未来は、サルウィン側からローナンへ、婚姻による同盟を申し出た場合を想定した時のものです。
 彼は私にとても優しかった。
 政略結婚だと承知した上で、それでも尚あのように接する事ができるなんて……とても大人な方なのだと思いました。
 ですが私を好きでいてくれたというのなら、あの優しさも納得できます。 
 エリアス殿下の顔を見つめると、彼は恥ずかしそうに目を伏せます。年上の男性のこのような仕草は初めて見ますが、可愛らしくて、何とも言えず心がむず痒くなります。

 「でも私は……」

 もう最初で最後の一本……じゃない、ハロルドに決めてしまいました。
 本来なら今ここでその旨をお伝えし、丁重にお断りしなければならないのですが、この話はまだ父も知らない事。
 私もハロルドも、お互いに立場というものがあります。
 確かな事が何も決まっていない以上、他言する事はできません。

 「返事は今すぐでなくて構いません」

 言い淀む私にエリアス王子は続けます。

 「この滞在中に、私の事を知っていただきたいのです」

 「エリアス殿下の事を知る……」

 「はい。その上で私との未来について考えてみていただきたいのです。私とアンネリーエ殿下の未来は私たちだけでなく、お互いの国に暮らす民にも多くの幸福をもたらします」

 それは私も考えました。
 サルウィンとローナンの同盟は、必ずや明るい未来をもたらすと。
 けれど、ハロルドの事を抜きにして考えても、やはりあの先見の内容が気になります。
 エリアス王子の言う通り、彼の滞在中に共に時間を過ごし、その中で探るのが一番良いような気もしなくはありません。
 ですがそのせいで何か良くない噂が立ったりしたら……。 
 結局その場ではどうしたら良いのか答えが出ませんでした。
 そしてエリアス王子の提案で、明日ふたりで庭園を散歩する約束をして、茶会はお開きとなったのです。


 *


 朝食を終えて少しした頃、私はエリアス王子と待ち合わせをした王宮内の庭園の入り口へ行きました。
 するとエリアス王子は既に護衛と思しき男性と共に待っていて、私を見つけると微笑み、手を振ってきます。
 気取ったところがまるでない無邪気な仕草に、こちらもつい笑顔になってしまいます。

 「おはようございます。とても良い朝ですね」

 「お待たせしてしまい、大変申し訳ありません」

 「いえ、私も今来たところなんですよ。アンネリーエ殿下……今日もとてもお美しいですね」

 少しだけ頬を染めてはにかむように言うものだから、何だか照れてしまいます。
 私たちは護衛や侍女とつかず離れずの距離で歩き出しました。

 

 

 
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