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しおりを挟む「アンネリーエ殿下、本日はお招きくださいましてありがとうございます」
翌日。
天使のような微笑みをたたえながらやって来たエリアス王子を、私は賓客をもてなすための応接室でお迎えしました。
支度のためにきてくれたばあやも、夢見るような顔でエリアス王子を見ています。
私としては複雑な気持ちなのですが、ばあや孝行になるのならそれはそれでよしとしましょう。
「エリアス殿下、どうぞこちらへ」
中央に置かれた応接用のソファに、テーブルを挟んで向かい合わせに座ります。
今日のエリアス王子の装いは、昨日よりも堅苦しくなく、けれども上質な生地とさり気なく流行を取り入れていらっしゃるあたりはさすがです。彼の美しさが更に引き立っていました
「ふたりきりでお茶をしたいなどと、わがままを申し上げてすみませんでした」
エリアス王子は顔面のみならず口から出る言葉まで謙虚で美しいです。
「そんな、どうかお気になさらないでください」
謝らなければならないのはこちらの方です。
私のせいでうちのハロルドがあなたの命を奪ってしまうところだったのですから。
お茶を飲むくらい何てことはありません。
ここで私は気になっていたことを口にしました。
「あの……何か人に聞かれたくないような大切なお話でも?」
いきなり切り出すのもどうかと思ったのですが、ふたりきりで呑気にお茶を啜る理由もありませんし、そんなに親しい仲でもありません。
しかしエリアス王子は“おや?”というように眉を上げ、何だか言いにくそうに口を開きます。
「いえ、あの……大切なお話といえばそうなのですが……それはもう少ししてからで」
何でしょう。
大切な話ほど先にするものではないでしょうか。私にはエリアス王子の意図が分かりませんでした。
それからお互いの国や家族の事など、他愛ない話を小一時間ほどしたでしょうか。
そしてちょうど会話が途切れた時、私はローナン国王からの親書について改めてお礼を申し上げました。
「このたびのローナン国王からのお申し出、本当にありがとうございました。それに第二王子であられるエリアス殿下が直接お届けくださるなんて……父を始め臣下たちも皆、ローナンの方々の誠実さに胸を打たれたに違いありません」
王子が届けるという事が、この親書にさらなる深みを持たせるのは言うまでもない話です。
「実は親書は臣下のうちのひとりが届ける予定だったのですが、私が無理を言って変わってもらったのです」
「まあ、そうだったのですか?でもどうして……」
エリアス王子は困ったように笑った後、私を真剣な目で見つめます。
「どうしてもサルウィンへ行く口実が欲しかったのです。アンネリーエ殿下、あなたにお会いしたくて」
「私に……何か困ったことでもおありなのですか?」
先見の力を借りたいような、何か良くないことでも起こっているのかと思っての質問だったのですが、エリアス王子は違うと言うように首を横に振りました。
「本当は、もう少し違った形であなたに伝えたかったのですが……初めてお会いした日から、あなたの事を思わなかった日は一日たりともありません。アンネリーエ殿下、どうか私との結婚を考えてみていただけませんでしょうか」
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