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 謁見の間。
 私は姉である第一王女テレーゼと共に、玉座に座る父の隣に並んで立ち、エリアス王子をお迎えしました。 
 蜂蜜色の柔らかな金の髪が、窓から差し込む光を受けてきらきらと輝いています。
 まるで教会に描かれる天使のようなお姿。
 あまりに清らかで美しいお姿に目を奪われる姉の横で、私は背中に変な汗をかきながら、心の中でひたすら懺悔をしていました。

 ──私の浅知恵のせいで、本来なら一生知らずに過ごしたであろうあなた様の美しき局部を無断で見てしまった罪……償いようがない故に、せめてお詫び申し上げます!大変申し訳ございませんでした……!!

 二本を見比べたのちに夫を決めるなんて、よく考えたら私はとんでもない女なのではないでしょうか。動悸が止まりません。

 「突然の訪問にも関わらず、このような場を設けていただき感謝の言葉もございません」

 美しい人は声まで美しいというのは本当ですね。
 それに謙虚でありながら、王族たる堂々とした風格も兼ね備えています。
 数年前にお会いした時はまだ少年の面影を残されていたのですが。
 
 「エリアス王子、遠路はるばるよく来てくれた。して、今回の訪問はどのような用件で?」
 
 「はい。我が父ローナン国王より、親書を預かって参りました」

 「何、親書とな」

 謁見の間に緊張が走ります。
 諸国ではサルウィンの行いに対し様々な反応が出ており、それぞれがそれぞれの行動に注視しているこの状況の中で、国王直筆の親書が届くとは。 
 皆の目がエリアス王子に向けられます。
 
 「今回のリヴェニア侵攻について、ローナンはサルウィンを支持致します」

 その瞬間、会場は大きなどよめきが起こりました。
 こんな早期に、諸国の出方も見ず我が国の支持を表明するなんて。
 誰もが驚きを隠せません。

 「……今からおよそ五年ほど前になりますが、覚えていらっしゃいますでしょうか。アンネリーエ第二王女殿下が我がローナンの危機を救ってくださった事を」

 エリアス王子の目が私の方に向けられました。


 あれは五年前のことになります。
 私は先見の力を通してローナンの危機を視ました。
 きっかけとなる出来事は、ローナンの南部地域に起こる予定の水害です。
 大雨が続き、河川の決壊により付近の村々は水没。数日してようやく水の引いた大地に残されていたのは、大量の家屋の残骸に、動物や魚の死骸。
 生活用水としても使用する河川は当然汚染され、そこから未確認の疫病が発生し、それは瞬く間にローナン全土に広がっていきました。
 未曾有の事態にローナン国内は混乱し、やがてそれを好機と見た敵国に狙われる、大勢の民が犠牲になる未来。
 しかしこの時、先見の力は私に結末を見せませんでした。
 “まだ未来は決まっていない”
 私はそう言われたような気がして、必死で疫病を食い止める策を考え、災害の起こる時期も記した手紙をローナン国王に宛てて書きました。
 私の行動に国内から反発がなかった訳ではありません。
 何故他国のためにそこまでするのかという声も上がっていましたが、先見の力がローナンの危機を視せた事にこそ答えがあるのだと私は思ったのです。
 ローナン側が信じてくれるかどうかはわかりませんし、先見の光景を元に私が考えた策も無駄に終わるかもしれません。
 それでも先見の力が他国の危機を視せたのは、きっと人の命を救うためだと信じ、ローナンからの反応を待ちました。
 そしてローナンから届いた書状には、国王から私への感謝の言葉が記されていました。
 私の言葉を信じてくださったのです。

 先見の力が視せた通り、水害は起こりました。しかし事前に対策を練っていたお陰で被害は最小限にとどめられ、疫病の発生も防ぐ事ができたのです。
 それからです。ローナンと我が国が友好関係に至ったのは。
 
 
 エリアス王子は微笑みました。

 「先見の姫君を守ろうとした皆さまのそのお心、我々ローナンの民は痛いほどにわかります。そしてサルウィンは決してリヴェニアの民を踏み躙る事はしなかったとも聞き及んでおります。万が一諸国から非難の声が上がった際には、我々ローナンはこの戦いの正当性を共に主張させていただく所存にございます」

 


 


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