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 夜明けの空が白みだす頃、私は温かなぬくもりの中で目を覚ましました。
 
 ──朝までずっと、抱いていてくれたの……?

 体温の低い私の身体が、彼の分け与えてくれた温もりのおかげでとてもぽかぽかとしています。
 目の前にはくつろげたシャツの間から覗く筋肉の線。 
 自分にはないそれに興味が湧き、そっと指先でなぞってみました。

 「う……ん……」

 くすぐったかったのでしょうか。
 ハロルドは目を覚ました訳ではありませんでしたが、私を抱く腕に力を込めました。
 さっきよりも近くで抱きしめられた私は、ある異物の存在に気付きます。

 ──お腹に当たるコレは……何かしら?

 護身用の短剣か何かかと思いましたが、寝る前の彼はそれらしきものを身に付けてはいませんでした。
 私は気になって手を伸ばし、それを掴みました。

 「──っ!!」

 その瞬間気付いたのです。
 熱くそそり勃つコレの正体に。

 ──どうしましょう!?

 思いっきり握ってしまいました!
 正確に言いますと大きくて握り切れていないのですが、そんな事はこの際どうでもいい事です。
 これが、私を悩ませた悪魔の本体かと思うと、手を放せばいいのに何故か放せません。
 一度は間近で見た仲です。恐ろしいけど妙な親近感も感じます。
 しかしこのまま握り続けていてはただの痴女。
 そっと手を放そうとした時でした。

 「もっと……触ってください」

 「ハ、ハロルド……っ!!」

 いつから目が覚めていたのか、ハロルドは熱い息を吐き出しました。

 「ご、ごめんなさい!私──」

 「恥ずかしがらないで、アンネリーエ。これはあなたを愛するために必要なものですよ。そしてあなただけのものだ」

 これが私だけのものだなんて荷が重すぎるような気がします。
 だからといって余所で好き勝手にされても困るのですが。
 ハロルドは放れようとしていた私の手に自身の手を重ね、何とソレを握り直させました。

 「帰ってきたら、コレであなたを思い切り愛させてください」

 ドクドクと脈打つ彼の分身。
 私は何も言葉を返す事ができません。
 だって“思い切り”って言われると……優しくしてくれるのではないのですか?
 おずおずと目で訴える私にハロルドは熱い唇を寄せます。

 「大丈夫……恐怖なんて二度と感じないほどにあなたを蕩かしてみせる……」

 その後ハロルドは、しばらく唇を離してはくれませんでした。

 *

 身支度を整えたハロルドを、昨夜彼が入ってきた同じ窓から見送ります。
 いつもなら行うはずの出陣式も、今回は秘密裏の作戦のため、必要ないそうです。
 それでもせめて顔だけでも出そうかと思ったのですが。

 「本当に、皆さんを見送らなくても良いのですか?」
 
 「ええ。その代わりと言っては何ですが……無事に戻ってきた暁には、団員を労ってやっていただけませんか。皆、アンネリーエの事が好きみたいだから」

 「皆さんが私を?」

 「騎士団に来るたびに、いつも声をかけてくれていたでしょう?」

 「ですが、それは私が声をかけていたというより皆さんが挨拶してくれるからお話をしただけで……」

 「あなたは優しい。だから皆が虜になる……早く戻ってあなたのすべてを私のものにしないと心配でたまらない」

 別れを惜しむように私を抱き締め、髪の匂いを嗅ぐハロルド。

 「どうかご無事で」

 彼が勝つことはわかっている。
 けれどそう願わずにはいられませんでした。
 そしてハロルドは誰の目にも触れぬよう、戻って行ったのです。


 
 

 
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