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しおりを挟む「約束します。何よりも先に、必ずあなたの元に帰ると」
「……先見の力は絶対です……今まで一度たりとも違えた事がありません」
「ですが今の私たちは、さっきまでとは明らかに関係性が変わりました。もう未来は変わっているはずです。私は必ずアンネリーエの元に帰ります」
そう言って私を抱き寄せる彼の笑顔には、さっきまでとは違う甘い雰囲気が漂っています。
何だか、やっぱり悔しいです。
私ばかりがいつも彼に振り回されているような気がします。
本当はまだ心の中はベラさんの事でモヤモヤとしていました。
ですが彼が“ごめん”と何度も謝るたびに、不思議と負の感情は取り除かれてしまうのです。
彼の行動に傷付き、彼の言葉で癒やされる。
これが恋なのだとしたら、なんと厄介なものなのでしょう。
「アンネリーエ……」
そんな事を考えていたら名前を呼ばれ、顔をあげると、窺うように私の顔を覗き込んでいるクリューガー卿が。
さっきの続きをするつもりなのでしょうか。
ですが、すっかりそんな気分ではなくなってしまいました。
「今日はもう休みましょう」
クリューガー卿はあからさまに顔を顰めます。
「明日の事もありますし、しっかりと身体を休めなければ」
すると彼は少し悩むような素振りを見せ、口を開きました。
「では、ここで一緒に休んでもいいですか?」
「ここで……ですか?」
「ええ。そして眠るまで、あなたの事を教えてください。できるだけたくさん」
そんな事を言われても、私には寝物語になるような武勇伝も、自慢の特技や趣味もありません。
あるのはこの先見の力くらいです。
しかしそれでもいいのだと彼は言います。
「アンネリーエの事なら何でも知りたい。どんな些細な事でもいいんです。そしてあなたにも、私の事を知って欲しい。知りたいと思って欲しい」
「何もかも、知りたくない事から知ってしまいましたが……」
クリューガー卿は気まずそうに頭を掻きます。
考えてみれば、彼は全裸をくまなく観察されただけでなく、閨事のすべてを見られ、あまつさえ馴染みの女性との睦み合いまで覗かれたのです。
こんなに可哀想な人、世の中にそうはいないでしょう。
ですがそんな事、彼にとっては大きな問題ではなかったようです。
「アンネリーエ、私たちは先見の力で結ばれる訳ではありません。僅かな期間でしたがお互い歩み寄り、惹かれ合った……それこそ相手のどんな姿を目にしても、共に歩いて行く事を選んだのだから」
「そうですね……」
あんな姿を見ても尚、この人と歩む道を選ぼうとしているのですから。
私たちが結ばれるのは先見の力のお陰ではありません。
「それとその……私の事は“ハロルド”と。これからは他の女性には決して呼ばせません。あなただけの名前です」
私だけが呼ぶことができる彼の名前。
たったそれだけの事が、心を温める。
「……ハロルド」
その夜、私たちはお互いについて語り合い、名前を呼び合いながらたくさん口付けを交わしました。
そして私は彼の広い胸の中に抱かれ、夢も見ずにぐっすりと眠りについたのです。
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