上 下
22 / 35

22

しおりを挟む




 私と髪の色が一緒だから、彼女を身代わりに抱いたと言うのですか。

 「そんな……“想いが叶わないから”なんて、言い訳にしかきこえません」

 「私たちにとって殿下は、触れる事はおろか話しかける事も許されない尊いお方です。こんな未来が待っているなんて誰が想像できたでしょう。それに、知っていたなら私だって……」

 私だって──
 その後に続く言葉は何なのでしょう。
 そして聞いたところで何かが変わるのでしょうか。

 「……彼女を抱きながら、あなたの事ばかり考えていました。どんな男に嫁ぐのだろう。その男の腕の中で、こんな風に声を上げて悦ぶのだろうかと……考えれば考えるほど頭に血が上って、気が狂いそうだった……いっそ忘れてしまいたいと何度も思いました。でも城であなたの姿を見かけるたびにどうしても恋しくて、ほんのいっときでも夢を見たくて、だから彼女の元へ通ったんです。こんな私をどうか許してください」

 ──許す?

 許すとは、何?
 私は怒っているのですか。
 いったい何に対して?
 
 「殿下、私はもう二度と彼女には会いません。もちろん部下を連れてあのような場所に行く事も……ですからどうか……!」

 「……許すも何もありません……過去は変えられませんし……未来はまだ起こっていないのですから……」

 それにクリューガー卿は何も悪い事をしていません。
 不貞を働こうにも、私たちはまだ結婚もしていないのです。
 彼が誰と何をしようと私が口出しする権利はないのです。
 彼の人生に私が直接関わったのは、ここ数日間だけ。私だけが、誰よりも彼の事を知らなかっただけです。
 先見の力で見た彼だって、生身の彼ではないのですから。

 「私たちは本当に結ばれる運命なのですか?」

 先見の力で見たような、あんな未来が本当に待っているのでしょうか。
 ベラさんとの事を知ってしまったあとで、何事もなかったかのように身体を重ねる事ができるのでしょうか。

 「どうしてこの力は、知りたい事を教えてはくれないの?」

 視たくもない未来ばかり見せて。
 私にどうしろと言うのです。

 簀巻きされた状態でひとりごちる私の身体をクリューガー卿はしっかりと抱き直します。

 「……殿下の知りたい事は何ですか?」

 私の知りたい事……そう言われると、本当に私は何を知りたいのでしょう。
 
 「わからないから……困っているのです……」

 何を知りたいのかだけじゃない、自分の感情もよくわからない。

 「あなたといると、自分が自分ではなくなるのです。それがとても……とても嫌なの……」
 
 「殿下……それは私もです。そして私は殿下の知りたい答えを知っています」

  そう言うと、クリューガー卿は私の簀巻きを解いてくれました。
 そして真っ赤な目で私の両手を握り、言ったのです。

 「殿下は、私に恋をしておられるのです」
 

 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~

宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。 愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、 ホテルで待っていた主人公。 だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。 初めは困惑していた主人公も、 義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。 あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。 ──────────── ※成人女性向けの小説です。 この物語はフィクションです。 実在の人物や団体などとは一切関係ありません。 拙い部分が多々ありますが、 フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...