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しおりを挟む私と髪の色が一緒だから、彼女を身代わりに抱いたと言うのですか。
「そんな……“想いが叶わないから”なんて、言い訳にしかきこえません」
「私たちにとって殿下は、触れる事はおろか話しかける事も許されない尊いお方です。こんな未来が待っているなんて誰が想像できたでしょう。それに、知っていたなら私だって……」
私だって──
その後に続く言葉は何なのでしょう。
そして聞いたところで何かが変わるのでしょうか。
「……彼女を抱きながら、あなたの事ばかり考えていました。どんな男に嫁ぐのだろう。その男の腕の中で、こんな風に声を上げて悦ぶのだろうかと……考えれば考えるほど頭に血が上って、気が狂いそうだった……いっそ忘れてしまいたいと何度も思いました。でも城であなたの姿を見かけるたびにどうしても恋しくて、ほんのいっときでも夢を見たくて、だから彼女の元へ通ったんです。こんな私をどうか許してください」
──許す?
許すとは、何?
私は怒っているのですか。
いったい何に対して?
「殿下、私はもう二度と彼女には会いません。もちろん部下を連れてあのような場所に行く事も……ですからどうか……!」
「……許すも何もありません……過去は変えられませんし……未来はまだ起こっていないのですから……」
それにクリューガー卿は何も悪い事をしていません。
不貞を働こうにも、私たちはまだ結婚もしていないのです。
彼が誰と何をしようと私が口出しする権利はないのです。
彼の人生に私が直接関わったのは、ここ数日間だけ。私だけが、誰よりも彼の事を知らなかっただけです。
先見の力で見た彼だって、生身の彼ではないのですから。
「私たちは本当に結ばれる運命なのですか?」
先見の力で見たような、あんな未来が本当に待っているのでしょうか。
ベラさんとの事を知ってしまったあとで、何事もなかったかのように身体を重ねる事ができるのでしょうか。
「どうしてこの力は、知りたい事を教えてはくれないの?」
視たくもない未来ばかり見せて。
私にどうしろと言うのです。
簀巻きされた状態でひとりごちる私の身体をクリューガー卿はしっかりと抱き直します。
「……殿下の知りたい事は何ですか?」
私の知りたい事……そう言われると、本当に私は何を知りたいのでしょう。
「わからないから……困っているのです……」
何を知りたいのかだけじゃない、自分の感情もよくわからない。
「あなたといると、自分が自分ではなくなるのです。それがとても……とても嫌なの……」
「殿下……それは私もです。そして私は殿下の知りたい答えを知っています」
そう言うと、クリューガー卿は私の簀巻きを解いてくれました。
そして真っ赤な目で私の両手を握り、言ったのです。
「殿下は、私に恋をしておられるのです」
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