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しおりを挟む「それで先見の結果……リヴェニアに勝利した私がその……帰還後に殿下の股の破壊行為に及ぶと……そういう事で間違いないでしょうか」
「…………はい…………」
白旗を揚げた私はその場に正座し、頭を垂れながら事情を説明しました。
さすがに体位や彼の言動の詳細を説明する事は憚られたので、ざっくりと、ええ、ざっくりすぎるほどざっくりとお話しました。
「殿下」
「はい……」
「リヴェニアは、いつか必ず叩いておかなければならない国です」
「はい…………」
そうですよね。
私もこれまで何度も、直接的にも間接的にも命を狙われました。
あのグレゴールというねちねちドロドロとした沼のような男は、この先も同じように私を……このサルウィンを脅かし続けるに違いありません。
「そして先見のお力が殿下に未来を見せたという事は、この戦いは必要な事であるという何よりの証」
「はい………………」
おっしゃる通りです。
ぐうの音も出ないとはまさにこの事です。
先見が先見の力に反抗的態度を取るなんてもってのほか、不良もいいところです。
「殿下は未来を視られた時、その行為が嫌だったのですか?それとも私自身がお嫌だったのですか?」
「えっ?」
「これは大切な事です。なので、殿下の率直な気持ちをお聞かせ願えますか?」
「私は……クリューガー卿を嫌いだなんて、これまで思った事はありません……」
あの行為が凄まじすぎたものだから、まだ何もしていない彼のことまでまとめて嫌悪してしまいました。
しかし、元々私は彼の人柄や功績に一目置いておりましたし、尊敬に値する人物であると思っております。
「そうですか。それは良かった」
いったい何が良かったというのでしょう。
けれどクリューガー卿は、先ほどまでの固い表情から一転、屈託のない笑顔を見せました。
「殿下、やはり私はリヴェニアへ行きます」
「……そうですか」
これは、最後通牒でしょう。
もうどうやっても彼を止める事はできません。
彼は私をその……本当かどうかはわかりませんが、『愛してる』と言っていましたし、リヴェニア侵攻の先に待っている未来は、彼にとってむしろ歓迎すべきものなのでしょう。
──やはり、先見の力で視た未来は絶対なのね……
諦めにも似た気持ちでいる私とは反対に、クリューガー卿は楽しそうな目を向けてきました。
「殿下。先見の力で視た未来が絶対で無い事を、今からこのハロルドが証明してみせましょう」
「え……?」
「出立まで、まだ時間はたっぷりとあります」
「はぁ……」
確かに明朝まではまだ半日くらいあります。
「私がどのようにして女性を愛するのか。それを朝までの間に、殿下にすべてお見せします」
「……は?」
どのようにして女性を愛するのかすべてを見せる?私に?いったいどうやって?
「もちろん、実地です」
実地って……それは、『俺の性愛にまつわる技術全般をこれから実地で行うから、その目でじっくりと見ておけ』という事ですか?
──この人、大丈夫ですか……?
悪魔ではないですが、何かこう……もっと厄介な側面が垣間見えた気がしてなりません。
しかし私の疑問と混乱などまるで意に介さず彼は続けます。
「実地するにおいて、実験体となってくださる方が必要です」
「実験体……」
思いつく限り、今すぐこの部屋へ駆け付けてくれて、なおかつクリューガー卿と睦み合う事に合意してくれそうな女性といったら……ばあや?
いえ、でもそれはいけません。
事の最中、万が一クリューガー卿の悪魔としての一面が顔を出してしまったら、ばあやの身体はひとたまりもありません。
もしかしたらばあやは望んで志願してくれるかもしれませんが、私は長年自分を慈しみ育ててくれたばあやの破廉恥極まりない姿など、絶対に見たくはありません。
そして悩む私に、恐ろしい言葉が告げられたのです。
「実験体はもちろん殿下です」
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