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しおりを挟む「殿下、もういいんです……!!」
もういい?
もういいってどういう事ですか?
突然の事で、思考回路と共に停止した私の身体を、クリューガー卿が力強く抱き締めます。
「私は死ぬ事なんて怖くありません」
──……へ?
死ぬ事は怖くない?
いや、あなた死にませんよ。
どちらかというと命が危ないのは私の方で。
「例え刺し違えても、必ずやリヴェニアの王グレゴールの首を取ります。あいつは過去何度もサルウィンを……殿下の命を狙いました。生かしておいては再び同じ事が起こるに違いない」
「だ、駄目です!!だからそれは駄目なの!!」
サルウィンの未来のためを考えれば確かにグレゴール国王の存在は危険です。
しかしあと少しでいいから時間が欲しいのです。
「何故それほどまでに私を行かせたくないのですか?これまでにも殿下の先見の力により出兵した事例はいくつもありました」
そう言われれば確かに、これまで先見の力で派兵した回数は数知れません。
「最近では第二騎士団のランベルト団長を笑顔で送り出していたではありませんか。ランベルトは出陣前に、あなたの白魚のような手に口付ける栄誉を許されていました」
ランベルト団長の件は、西の国境付近で起きた争いの鎮静のためでした。
それは笑顔で送り出しますよ。苦労もありますが、皆が無事帰還する未来が視えていましたし、何より私はその後股を限界まで開かれたりしない訳ですから。
「それなのに何故私だけ?殿下……どうか殿下のお気持ちを教えてはくださいませんか。このハロルド、その言葉を冥土の土産にいたします」
気持ちを言葉に?
『あなたとあんなふうにまぐわうのが怖くてたまりません』という言葉を冥土の土産にするつもりなのですか!?
例えクリューガー卿が本当に死地に赴くのだとしても、そんな事言えません。
──どうしたらいいの……
何も言えないまま、時間だけが過ぎて行きます。
「……殿下は覚えていらっしゃらないでしょうが……私が初めて殿下に拝謁させていただいたのは、初陣の直後でした」
……今クリューガー卿は、私が覚えていないと言いましたが……覚えています。
彼の初陣とは、私が先見の力で視た戦争に、第一騎士団が出陣した時の事です。
帰還した騎士たちの中に、大怪我を追った青年がいました。
「……敵側の残党が、戦に勝って油断している我々の本陣を襲撃してきて……情けない事に未熟だった私は大怪我を。仲間に担がれ、恥ずかしい思いで帰還したのですが、あなたはどこからその話を聞きつけたのか、私の所まで来てくださった。先見の姫が、王女殿下がいち兵士の元へですよ。けれど、本当に驚いたのはその後だ」
クリューガー卿の腕は、更に強く私を抱き締めました。
「私を見るなり泣き出して、ごめんなさいと何度も何度も謝るのです。私の怪我は、先を視る事のできなかった自分のせいだと」
その通りです。
私の力がまだ不安定だったのか、理由はわかりませんが、残党の襲撃を視る事ができなかった。
クリューガー卿も周りの方々も、私のせいじゃないと必死で慰めてくださいましたが、それでもショックでたまりませんでした。
自分のせいで誰かに危害が及んだのは初めての経験でしたから。
怖かった。
自分の発言で、誰かの人生が変わってしまうのだと。
「あの日から私は、殿下のためならいつでもこの命を捧げようと、そう思って生きてきました。殿下……私も殿下と同じ気持ちです」
「…………は?」
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