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しおりを挟む「おい、見ろよあれ……姫様が……泣いてる!?」
「ほんとだ……まさか、団長と何かあったのか!?」
その日、泣きながら騎士団の稽古場を走り去るアンネリーエの姿を目撃した団員たちは、まさかとは思いながらも敬愛する団長の不埒な行為を疑った。
実際にハロルドが不埒な行為に及ぶのは、まだまだ先の未来なのだが、団員たちはそんな事を知る由もない。
稽古場がざわめく中、事の真偽を確かめるため、同じく騎士たちとアンネリーエの姿を目撃していた副団長カールは、すぐさまハロルドの元を訪れた。
しかし、在室中のはずなのに、何度ノックしても中からは返事がない。
「おい、ハロルド!いるんだろ!?入るぞ」
それでも返事がなかったため、カールは訝しみながらもドアノブに手をかけた。
しかしカールはそこで見たものに驚愕する。
「ハロ……ルド?」
ハロルドは床に跪き、両手を脱力した状態で空を見ていた。
長年同じ釜の飯を食い、共に戦場を駆けてきた友人の有り得ない姿にカールは目を剥いた。
すぐさま駆け寄り、名前を呼びながら両肩を掴んで揺さぶる。
「おいハロルド!しっかりしろ!いったい何があった!?」
するとハロルドは、熱に浮かされたような表情で口を開いた。
「殿下……」
「殿下がどうしたんだ?泣いてらしたぞ!」
「そうなんだ……殿下は、私のためにあんなに心を痛めて……」
きっと、視てしまったのだ。
この戦いで私の身に危険が及ぶか……もしくは命を失うかもしれない未来を。
『どうしたらあなたを止められるの……?』
『どうしたらあなたをこの戦いから遠ざけることができるの……どうしたら……!!』
殿下は、リヴェニア侵攻で命を落とす私を止めようとしているのだ。
だから戦いから私を遠ざけるような案ばかりを……それも夜もろくに眠らずに。
殿下が私の元へ訪ねてこられたのは三回目だが、回を重ねるごとに目に見えて悪くなる顔色を見るたび胸が痛かった。
なぜ侵攻を命じてくれないのか。
ずっと疑問に思っていた。
けれどその理由がようやくわかった。
すべては私の命を救うためだったのだ。
──殿下……!私はあなたのためなら、この命を落とすことも厭わないというのに!
「……カール、頼みがある」
「なんだ?」
「お前たちの命、私に預けてくれないか」
ハロルドからの唐突な質問に、カールは一拍間を置いてから、曇りのない笑顔で答えた。
「もうとっくの昔に預けてるだろ?好きにしろよ」
「そうか……すまないな」
リヴェニアを落とす。
ハロルドはたった今、そう決意した。
おそらくアンネリーエは反対するだろう。
けれど、例え死んだとしても、彼女を失うよりずっといい。
けれどその前に、どうしても聞いておきたい事がある。
「朝までに準備を整えておいてくれ。あと俺の馬の用意も」
「お前は?」
「……少し用がある。朝までには戻る」
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