上 下
10 / 35

10

しおりを挟む





 クリューガー卿は憤怒の表情で、ゆっくりとこちらに近付いて来ます。
 私は側にあった上掛けを手繰り寄せ、自身の身体を隠しました。
 
 『な、何だお前は!おい、衛兵は何をしている!?』

 取り乱した様子のエリアス王子をクリューガー卿は嘲笑います。

 『そのお綺麗な笑顔にすっかり騙されたよ……まさかあんな事を企てていたとはな……』

 ──

 いったいどういう事なのでしょう。
 しかしクリューガー卿の言葉にエリアス王子は顔を引きつらせました。
 そしてすぐさま私の方を振り返り、抱き寄せたのです。

 『アンネリーエ、彼は何か誤解しているんだ!君からも彼に出て行くよう言ってくれないか?』

 しかしその瞬間、クリューガー卿は激昂しました。

 『この卑怯者が!!殿下を盾にするつもりか!!』

 『アンネリーエ、彼は君に懸想していたんだ。けれど君は私を愛してくれた……彼は私を逆恨みしてるんだ。君の心も身体も私に奪われたとね』

 『エリアス様……!!』

 そして私がクリューガー卿に向かって口を開こうとした時です。
 エリアス王子の背後に、振り上げられた剣が見えました。

 『いやぁぁぁあ!!』

 部屋に響く絶叫。
 私は血を流し倒れるエリアス王子に縋りつき、何度も何度も名前を呼んでいます。

 ──何てことを……!!

 せっかく穏やかに幸せになれる未来を見つけたのに、まさか未来の夫を殺されるなんて。

 しかしここで私は現実に引き戻されます。
 ですが今回ばかりは必死で抗いました。

 ──もう少し……もう少しだけ……何があったのか知りたいの……!!
 
 ですが無情にも、先見の力はそれを許してはくれませんでした。
 


 「殿下!!アンネリーエ殿下!!どうされました!?」

 目を開けると、頬にひんやりとした感覚が。
 どうやら私は泣いているようです。
 当たり前です。なんてったって夫(推定)を殺されたのですから。
 クリューガー卿は険しい顔で私の状態を心配しています。
 ですが、私は悲しくてたまりませんでした。
 だからでしょうか、つい彼に問いかけてしまったのです。

 「どうしたら……どうしたらあなたを止められるの……?」

 「殿下?いったい何の事ですか?」

 「どうしたらあなたをこの戦いから遠ざけることができるの……どうしたら……!!」

 言い終わる前に私は立ち上がり、その場から逃げるように走り出していました。

 「アンネリーエ殿下!?」

 後ろからクリューガー卿の声が聞こえましたが、私は決して振り返らず、自宮まで走り続けたのです。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~

宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。 愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、 ホテルで待っていた主人公。 だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。 初めは困惑していた主人公も、 義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。 あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。 ──────────── ※成人女性向けの小説です。 この物語はフィクションです。 実在の人物や団体などとは一切関係ありません。 拙い部分が多々ありますが、 フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊

処理中です...