9 / 35
9
しおりを挟む不思議なものですが、あれほど恐れていたこの手も、何度か触れると少しは慣れるものです。
いつものように、両手で大きな手を包み込むと、今日はその上からクリューガー卿の空いた手のひらが重ねられました。
──おや?
この行為は会議場で先見をした時以来です。
何でしょう、案の内容を口にしないことで、また彼に心配をかけてしまったのでしょうか。
目を閉じると暗闇の底に落ちて行く感覚がしました。
どうか視せてください。
私は祈るようにその時を待ちます。
──きた!!
暗闇が開け、眩い光が溢れます。
そして光を抜けた先で私を待っていたのは……
白い臀部でした。
──何!?何なのですか!?
一転、未曾有の混乱の中に叩き落された私は、それでも必死に状況把握に努めました。
この臀部は明らかにクリューガー卿のものとは違いますね。
彼の臀部はもっとこう……筋肉でぎゅっと引き締まっていました。
ですがこの臀部はいかにもお育ちが良さそうな、美しく滑らかな肌をしています。
──って、臀部の品評をしてる場合じゃありません!!私ったらなんてこと!!
『あ……ぁん……ふ……ん……』
優しげに揺れる臀部の先から聞こえてくる声は……やはり私のものでした……。
ええ。この展開になった時点で何となくそんな気がしておりました。
『気持ちいいのですか、アンネリーエ?』
優しく、いたわるような声音が耳に甘く響きます。
後ろから見ただけですが、蜂蜜色の金髪といい間違いありません。これはローナンのエリアス王子です。
それにしても、何と穏やかな優しい動きなのでしょう。
これですよ、これ。
愛を交わすとは、このように相手を慈しむ事なのではありませんか?
そしてお決まりのようにここで視点は変わります。
前に回された私の視点。
そこには優しい笑みを浮かべるエリアス王子と、彼の下腹部から生える美々しい男性器が。
──肌のお色と同じで……綺麗……
はっ!私ときたら、クリューガー卿とエリアス王子の色を比べるなんて何て事を!!
『あなたが姉上と私を応援していたのは知っていました。ですが私はどうしてもあなたが良かった……アンネリーエ、一生大切にします』
エリアス王子は私の身体を包み込むように掻き抱き、ほんの少し腰の動きを速めます。
『あっ、あっ、エリアス様ぁ……っ、気持ちいいの……!』
私は甘えたような声を出しながら、エリアス王子の背中に手を回し、足を彼の下半身に絡ませます。
『アンネリーエ、可愛い……可愛いよ……』
何て初々しく愛おしい光景なのでしょう。
未経験の私が、誰かとまぐわう光景を目の当たりにして思う事ではないと思うのですが、お互いがお互いを真に愛しあう未来に自然と胸が暖かくなります。
──私は……エリアス王子の妻になるのですね……
改めて思うと、何ともむずかゆい気持ちになり、頬が熱いです。
先見の力がこの未来を視せたという事は、やはりエリアス王子をお迎えするという案は、間違ってはいないという事なのでしょう。
──早速父上に話さなければ
ですが、その時でした。
『きゃーっっ!!』
私たちの愛しあう寝室の隣から、侍女と思しき者の悲鳴が響きました。
『お、お待ちくださいクリューガー卿!!こんな事をなさっては、あなたもただでは済みませんぞ!!』
こんどは男性の声です。入り口を守る衛兵の声でしょうか。
それにしても今、何かとんでもない事を口にしませんでしたか。
クリューガー卿……なぜ彼の名が?
すると突然寝室の扉が凄まじい音とともに蹴破られました。
『なんだ!?』
エリアス王子は私から身体を離し、後ろを振り向きます。
彼の視線の先に立っていたのは、恐ろしいほどの怒気に身を包んだ悪魔……ではなく、クリューガー卿だったのです。
12
お気に入りに追加
740
あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる