先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

クマ三郎@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
2 / 35

しおりを挟む





 『先見の姫を殺してしまおう』

 私が十八を迎えたその日、誰かの思念が唐突に頭の中に流れ込んできました。
 それはやがて鮮明な映像に変わり、私は声の主を知ることになるのです。
 西の隣国リヴェニアの王グレゴール。
 彼の国こそ、二歳の私に先見の力を顕現けんげんさせるきっかけとなった戦を仕掛けてきた国です。

 早々に開かれた会議の場で、重臣たちは怒りを露にしました。

 「我が国の至宝、アンネリーエ殿下の命を狙うなどと言語道断!今すぐにリヴェニアへ攻め込むべきです!」

 しかし、リヴェニアへの侵攻を声高に叫ぶ者たちに、私は諭すように話しかけました。

 「皆さまの気持ちは大変嬉しいのですが、私は自分の命を守るためとはいえ、戦により罪もない民草の命が失われることは望みません」

 「しかし殿下!だからと言ってこのまま黙って見過ごすわけには参りません。奴らが攻めてくるとなれば、少なからず我が国の民にも被害が出ます!」

 「私が見たものはあくまで近い未来に起こること。今はまだ事が起こる手前の段階です。理由なき侵攻は、他国からの非難の的となります。ですが私とて黙って殺されるつもりなどありません。とにかく今は冷静になり、こちらも対抗策を練りましょう」

 私の言葉に会議場は少し静けさを取り戻しました。しかし、そこで一人の男性が手を挙げたのです。

 「ハロルド、なにかあるなら申してみよ」

 父王に名前を呼ばれた男性は、精鋭揃いと名高い第一騎士団を率いる団長、ハロルド・クリューガー卿。
 光の角度で色が変わる不思議な宵闇色よいやみいろの瞳は、真っ直ぐに私に向けられていました。

 「この件、どうか私にお任せいただけないでしょうか」

 「任せる……とは?ハロルド、お前がグレゴールを仕留めるとでもいうのか」

 「その通りでございます。お任せいただけるのであればこのハロルド、民草を巻き込むことなくリヴェニアの企みを潰してみせましょう」

 会議場は騒然としました。
 臣下たちは口々に『そんなことできるわけがない』とまくしたてています。
 実際その通りだろうと私も思いました。
 民草を巻き込む事なく他国の王をその座から降ろす……まさか無血開城をさせるとでもいうのでしょうか。
 いくら第一騎士団が精鋭揃いといえど、そんな夢物語のような事を実現できるとは、私を含めこの場にいる者たちには到底思えません。
 そして交渉のテーブルにリヴェニアがつくとも。
 しかし、クリューガー卿の目は真剣そのものです。

 「我が国の至宝。尊きアンネリーエ殿下、どうか私の未来を視ていただけないでしょうか。この言葉がはったりではないと、そのお力をもって証明してください」

 私の持つ力は二つ。
 一つは未来に起こる出来事や、誰かの思念が脳内に流れ込んで来るもの。
 もう一つは身体の接触により、その人物の未来を見るものです。
 二つ目は、これまでの先見様の誰もが持ち得なかった力。
 これこそが、臣下たちが必死になって私を守ろうとする最たる理由なのです。
 しかし二つ目の力には少々問題がありました。
 
 「……ご存知かとは思いますが、個人の未来は必ずしも視れるとは限りません」

 なぜなのかはわからないのですが、この力は視たい未来を見れるのとは少し違うのです。
 視えるのは、私にこの力を授けたと思われる目に見えない大いなる存在が、必要だと判断した事象だけ。
 
 「構いません。ですからどうか、私がその御手に触れることをお許しください」

 そこまで言うのなら仕方ありません。
 彼がどのようにしてリヴェニアの企みを食い止めるつもりなのかはわかりませんが、私は無益な戦いを望みません。
 もしも彼の未来が視えたとして、その結果が私の望む平和的解決ではなかった場合、何があっても止めよう。そう思いました。

 「わかりました。クリューガー卿、どうぞこちらへ……」

 許可を得たクリューガー卿は席を立ち、私の前まで来ると恭しく跪きました。

 



しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...