先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

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 先見さきみの姫
 
 これはわたくし、アンネリーエ・サルウィンにつけられた二つ名です。

 このサルウィン王国ではごくまれに、未来を予知することのできる、特別な力を持つ子供が生まれます。
 先見の力があると判明した時点で、その子はすぐさま国に保護されます。
 力の悪用と、他国からの誘拐を防ぐためです。
 なので、大切な我が子を差し出す代わりといってはなんですが、親御さんには莫大な支度金が支払われます。
 そして場合によっては爵位まで貰えるとあり、【先見様さきみさま】を家門から輩出することは、民たちの悲願でもありました。

 このサルウィンは建国三百年ほどの若い国ではありますが、大陸の中では堂々たる存在感を放っております。
 それもすべては先見の力のお陰といっても過言ではありません。
 どんな戦も凶年も、先見の力がある限り恐れることなどないからです。
 だからといってサルウィンの王族は、この力をもってして覇道を歩もうなどとは、決していたしませんでした。
 そして歴代の【先見様】もまた、未来の映像が脳内に流れ込んでくるのはいつも決まったように、避けられない戦いが起こりそうな気運の時や、甚大な被害が起こり得るであろう災害時だけだったそうです。
 なのでサルウィンは、先見の力を悪用することもなく、他国との足並みを揃えながら友好を築いてきたのです。
 
 ですが先代の【先見様】を失ったあと、サルウィンにはしばらくの間先見の力を持つ子供が生まれませんでした。
 その間これ幸いと、友好国であったにも関わらず、手のひら返しで攻め込んでくる国が後を絶ちませんでした。
 先見の力がなければ、サルウィンなど敵ではないと思ったのかもしれません。
 国民は長い間、迫りくる侵略の恐怖に怯えました。
 しかしある日、ついに先見の力を持つ赤子がこの世に生を受けたのです。
 なんとそれも王家に。
 国王コルネリウスと王妃エルフリーデの間に授かった第二王女アンネリーエ。
 そう、私です。

 あれは私が二歳を過ぎ、少しずつお喋りができるようになってきたある日の朝の事でした。
 幼い私は夢から覚めたあと、突如口を開いたそうです。

 「おっきなはしがね、ぼーんってなったの。さいねの」

 私のお世話をしながらその話を聞いていた乳母と侍女は、他愛もない子供の夢だと思い、うんうんと頷きながら聞き流していたそうです。
 しかし翌日、サルウィンを流れる重要な河川に掛けられたサイネ橋が、敵軍の手によって爆破されたことで事態は急変します。
 それから、何人もの侍従たちが緊張の面持ちで、私が言葉を発するのを見守りました。
 万が一私に先見の力が顕現したのであれば、サルウィンの危機である今、必ずや次の啓示が降りるはずだと。

 そしてついに、その時がやってきたのです。

 「たくさんのおうまにのったひとが、みんなやりをもって、あもるからくるよ」

 その言葉を聞いた父王は、すぐさま西にあるアモル渓谷けいこくへと軍を派遣しました。
 その危険さ故に、敵が侵入してくる事は考えにくいと警備が手薄なアモル渓谷。
 騎士たちは皆半信半疑でした。
 なぜなら敵が潜んでいるとしたら、昨日破壊されたサイネ橋付近と考えるのが普通で、自分たちも当然そこに派遣されるものだと思っていたからです。
 中には私の力を疑い、反論した者もいたのだとか。
 しかしアモル渓谷に到着した騎士たちが見たものは、渓谷を越えて攻め込んでくる敵軍の姿でした。
 サイネ橋の爆破はサルウィン兵の目を欺くためのおとりだったのです。
 サルウィン兵が待ち構えているとは夢にも思わなかったのでしょう。
 我が国が誇る精鋭揃いの第一騎士団に迎え撃たれた敵兵は、為す術もなく降伏したそうです。

 こうして私の先見の力で国は救われ、次代の先見の誕生に王国中が湧きました。

 そしてそれから十六年の時が過ぎ、私は十八の歳を迎えたのです。




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