1 / 35
1
しおりを挟む先見の姫
これは私、アンネリーエ・サルウィンにつけられた二つ名です。
このサルウィン王国ではごく稀に、未来を予知することのできる、特別な力を持つ子供が生まれます。
先見の力があると判明した時点で、その子はすぐさま国に保護されます。
力の悪用と、他国からの誘拐を防ぐためです。
なので、大切な我が子を差し出す代わりといってはなんですが、親御さんには莫大な支度金が支払われます。
そして場合によっては爵位まで貰えるとあり、【先見様】を家門から輩出することは、民たちの悲願でもありました。
このサルウィンは建国三百年ほどの若い国ではありますが、大陸の中では堂々たる存在感を放っております。
それもすべては先見の力のお陰といっても過言ではありません。
どんな戦も凶年も、先見の力がある限り恐れることなどないからです。
だからといってサルウィンの王族は、この力をもってして覇道を歩もうなどとは、決していたしませんでした。
そして歴代の【先見様】もまた、未来の映像が脳内に流れ込んでくるのはいつも決まったように、避けられない戦いが起こりそうな気運の時や、甚大な被害が起こり得るであろう災害時だけだったそうです。
なのでサルウィンは、先見の力を悪用することもなく、他国との足並みを揃えながら友好を築いてきたのです。
ですが先代の【先見様】を失ったあと、サルウィンにはしばらくの間先見の力を持つ子供が生まれませんでした。
その間これ幸いと、友好国であったにも関わらず、手のひら返しで攻め込んでくる国が後を絶ちませんでした。
先見の力がなければ、サルウィンなど敵ではないと思ったのかもしれません。
国民は長い間、迫りくる侵略の恐怖に怯えました。
しかしある日、ついに先見の力を持つ赤子がこの世に生を受けたのです。
なんとそれも王家に。
国王コルネリウスと王妃エルフリーデの間に授かった第二王女アンネリーエ。
そう、私です。
あれは私が二歳を過ぎ、少しずつお喋りができるようになってきたある日の朝の事でした。
幼い私は夢から覚めたあと、突如口を開いたそうです。
「おっきなはしがね、ぼーんってなったの。さいねの」
私のお世話をしながらその話を聞いていた乳母と侍女は、他愛もない子供の夢だと思い、うんうんと頷きながら聞き流していたそうです。
しかし翌日、サルウィンを流れる重要な河川に掛けられたサイネ橋が、敵軍の手によって爆破されたことで事態は急変します。
それから、何人もの侍従たちが緊張の面持ちで、私が言葉を発するのを見守りました。
万が一私に先見の力が顕現したのであれば、サルウィンの危機である今、必ずや次の啓示が降りるはずだと。
そしてついに、その時がやってきたのです。
「たくさんのおうまにのったひとが、みんなやりをもって、あもるからくるよ」
その言葉を聞いた父王は、すぐさま西にあるアモル渓谷へと軍を派遣しました。
その危険さ故に、敵が侵入してくる事は考えにくいと警備が手薄なアモル渓谷。
騎士たちは皆半信半疑でした。
なぜなら敵が潜んでいるとしたら、昨日破壊されたサイネ橋付近と考えるのが普通で、自分たちも当然そこに派遣されるものだと思っていたからです。
中には私の力を疑い、反論した者もいたのだとか。
しかしアモル渓谷に到着した騎士たちが見たものは、渓谷を越えて攻め込んでくる敵軍の姿でした。
サイネ橋の爆破はサルウィン兵の目を欺くための囮だったのです。
サルウィン兵が待ち構えているとは夢にも思わなかったのでしょう。
我が国が誇る精鋭揃いの第一騎士団に迎え撃たれた敵兵は、為す術もなく降伏したそうです。
こうして私の先見の力で国は救われ、次代の先見の誕生に王国中が湧きました。
そしてそれから十六年の時が過ぎ、私は十八の歳を迎えたのです。
25
お気に入りに追加
741
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる