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第三章

11 波紋

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 アヴァロンは意外にも勤勉な男だった。
 皇帝に即位してからというもの、前夜どんなに羽目を外そうとも翌朝は必ず時間通りに執務室へ姿を現した。
 それなのにルーベルの成人の儀の翌日、執務室に彼は姿を見せなかったのだ。


 *


 「ご気分はいかがですか?」

 目が覚めると既にルーベルの姿はなく、代わりにやって来たのはタミヤだった。
 タミヤの持つトレーには薬湯が乗っている。

 「ありがとうタミヤ。殿下は?」

 「はい。殿下でしたらいつも通り政務に向かわれました。朝お声掛けしたらご自分の宮にいらっしゃらないのでびっくりしましたけれども。うふふ。」

 タミヤ曰くいつもより少し寝坊をしたルーベルは慌ててアマリールの宮から出て来たそうだ。
 “あれが起きたら薬湯を持って行け”
 走りながらそう言い付けて。

 「殿下が寝坊なんて珍しいわ。やっぱりお疲れだったのね。」

 しかしアマリールの発言にタミヤはまた笑う。

 「どうしたのタミヤ?」

 「うふふ。殿下はまだお若いですから……疲れたと言うよりも、アマリール様が隣にいたからいつもよりよく眠れたのでしょう。」

 「えっ!?」

 アマリールの頬が熱くなる。
 ルーベルが側にいると温かくて安心してとてもよく眠れる。
 (……殿下もそうなら嬉しい……)

 「そうだ……昨夜の事を陛下に謝らなければ……!タミヤ、申し訳ないんだけど陛下とマデリーン様にお会いできるよう申し込んでくれるかしら?」

 「承知いたしました。すぐに使いを出します。早ければ一時間以内にはお返事がくるかと。」

 「うん。助かるわ。ありがとうタミヤ。」

 ひとまず安心したアマリールだったが、使いの者は一時間経っても二時間経っても戻ってくる事はなかった。


 **


 「父上が?」

 「はい……どうやらその女性と寝所にこもったきり出て来られないそうなのです。」

 ゲイルの顔色が悪い。
 おそらくゲイルも父親である宰相から聞いたのだろうが、宰相の顔色は彼よりももっと悪いだろう。

 「その女どこの家門の出だ?」

 「それがその……連れてきたのはアーデン卿でして……」

 「アーデン卿……?」


 『そうだ……殿下、陛下はどちらに行かれたのでしょう?ずっとお姿が見えないのですが……』


 ルーベルの脳裏にその時の光景が甦る。
 (……そう言えばアーデン卿の連れていた女と父上が熱心に話していた……そしてその女の顔を見た瞬間アマリールの顔色が悪くなって……)

 「殿下?」

 「いや、続けろ。その女はまさかアーデン卿の妻か?」

 「いえ、さすがにそれは……。アーデン卿はその女性の夫だった者と旧知の仲だったそうで……。」

 「“夫だった”?」

 「ええ。女性の名はシェリダン・デ・ヴァロー。昨年亡くなったブノワ・デ・ヴァロー伯爵夫人です。」

 「ヴァロー卿の……では寡婦か……参ったな。」

 いっその事人妻に手を出して貰った方がまだマシだった。
 寡婦であればそのまま愛妾として皇宮に上がるかもしれない。もしかしたら皇妃にも……

 「いや……まさか父上だってそんな馬鹿な真似は……。」

 しかし父親に対するルーベルの信頼は大きく裏切られる事となる。
 アヴァロンは翌日、宰相エメレンスに第三の皇妃宮建設を命じたのだった……。







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