65 / 125
第二章
17 誘い
しおりを挟む高熱のせいで週に一度の殿下とのお茶会を休んだ私に、衝撃の出来事が起こった。
何と……殿下から見舞いの花と手紙が届いたのだ。
(……こんなの噓だ……でも間違い無い……)
真っ白い封筒に書かれていた文字は、まだ完成されてはいないが殿下の筆跡だった。
彼が私宛に手紙を寄越したのは初めての事。あのルーでさえ私に手紙なんてくれた事はない。
封を開けようとする手が震える。心臓までおかしなリズムを刻み出した。
“アマリールへ”
神経質そうな美しい字体。
前世は書類でしか見た事はない。
彼の愛を欲しがっていたあの頃……彼の書くこの文字にさえときめいていたのを思い出す……。
“熱を出したと聞いた。
身体は大丈夫か?
その症状が以前起きた事故と関係ない事を願っている。 ルーベル”
手紙には花が添えられていた。
「皇太子殿下の贈る花にしては……何だかその……」
ララが言うのも無理はない。
添えられていたのは小さく赤い蕾の薔薇。
きっと開く前のものをわざと贈ったのだろう。
苺にそっくりなこの状態を私に見せるために……。
嬉しいとは思う。でも彼の本心を知ってしまった後ではとても複雑な気持ちだ。
あの冷酷な彼が“リル”のためならばここまで心を砕くのだと……。
「熱が下がったらお返事を書かなきゃね……」
私はララが生けてくれた薔薇を見つめながら、返事はどんな事を書こうかとぼんやり考えていた。
**
すぐに下がると高を括っていたら、何と高熱は五日も続いてしまった。
すっかり身体も弱ってしまい、ベッドから降りれるようになってもふらふらとよろめいてしまう。それを見かねたお父様が、“今週も殿下のお茶会はお断りする”と言ってきた。
二度のお断りは失礼だと思いつつもこの状態では仕方がない。私は大人しくそれに従う事にした。
確かにこれでは皇宮へ行っても迷惑をかけるだけだ。
殿下にはお見舞いのお礼と再びお茶会をお断りする謝罪の手紙を送った……のだが……
人生は小説よりも奇なり。
何と二度の人生で彼から一度も貰えなかった直筆の手紙。それを二度も貰う事になるとは。
“アマリールへ”
一度目の衝撃に比べるとやや落ち着いたが、やはり彼の筆跡を見ると胸が騒ぐ。何故なのだろう。本人を目の前にするよりも緊張してしまうのは……。
“やっと熱が下がって良かった。
来週なのだが皇宮で騎士達による公開の模擬戦が行われる。一緒に観よう。待っている。 ルーベル”
手紙にはそう書かれていた。
模擬戦……騎士団の皆様の年に一度の見せ場でもあるそれに私が……?
“一緒に観よう”とは一体どういう事なのか。
私はまたしても手紙を前に悩むのだった。
0
お気に入りに追加
2,752
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫
Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。
生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。
行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。
そしてそんな妻を愛してやまない夫。
束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。
自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。
時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。
そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※現代もの
※R18内容濃いめ(作者調べ)
※ガッツリ行為エピソード多め
※上記が苦手な方はご遠慮ください
完結まで執筆済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる