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第一章
41 ロウ公爵
しおりを挟むアーセルのロウ公爵は視察もかねて首都で一泊し、翌日の朝皇宮へ到着した。
ロウ公爵は前領主であった父の後を継ぎ、発展途上だったアーセルの大規模な下水道事業を行うなどして国に貢献してきた。彼の尽力のお陰でアーセルは衛生面の向上から人口も増加し、国外から商人の出入りも増え、発展の一途を辿っている。
そんな若き公爵が入宮した途端出迎えた者達からはざわめきが起こった。
厄介者の皇女を押し付けられ、それを快く承諾した男だ。どのような器量の持ち主かと皇宮内はその噂でしばらく持ちきりだったのだ。
しかし姿を現したロウ公爵ことアレクサンドルはスラリとした長身に背筋の伸びた美しい立ち姿。少し長めの金色の髪を後ろで一つに束ね、その涼やかな瞳は穏やかに周りを映している。
「ロウ公爵、ようこそエレンディールへお越し下さいました。長旅ご苦労様でした。昨夜はよく眠れましたか?」
ロウ公爵は出迎えを任されたゲイルの言葉に優しげに微笑んで謝辞を返す。
「ゲイル殿、お出迎え感謝いたします。さすがエレンディールの首都ですね。宿も一流で食事も美味しかった。お陰でとてもよく眠る事が出来ましたよ。」
ロウ公爵に会うのは初めてのゲイルだったが、彼のなかなかの好青年ぶりに何とも言えぬ気持ちになってしまった。
(……あの皇女には勿体無いだろこれ……)
別に自分は恋愛対象が男性という訳では無いし、洞察力も観察力も人並み以上の自信はある。その自分が出会った瞬間こんなにも毒気を抜かれてしまったのだ。目の前の理知的で爽やかな青年は明らかに優良物件だ。“超”をつけてもいいくらい。
(嫁ぐのがあの皇女でなければエレンディールとアーセルの関係はこれから更に良くなるだろうに……そう、あのアマリール嬢のような人だったら……)
アマリールだったらアーセルもロウ公爵家も大喜びだっただろう。生家はエレンディールの主要産業が集中する都市。各産業の知識と技術、それに加えてクローネ侯爵の持つ販路のパイプはアーセル発展の素晴らしい助けにもなる。それに比べて皇女とは名ばかりのローザには、誇れる生家も財産も、夫となるべき男を支える器量も何も持ち合わせていない。あるのは母親譲りの見た目だけ。
(……まあ、この青年ならあの皇女ともうまくやってくれるだろう……)
ゲイルは半ば祈るような気持ちでロウ公爵と共に皇帝陛下の待つ広間へと向かったのだった。
***
「よく来てくれたなロウ公爵。お父上は健在か?」
「はい。早く引退しすぎたとボヤいております。」
謁見の間には皇帝アヴァロンと皇后マデリーン。そしてローザの母、第三皇妃シェリダンがいた。
この結婚に反対していたシェリダンであったが、ロウ公爵の美丈夫ぶりを見て少し戸惑っているようだ。
(あーあ、相変わらずだなー…。これは親子丼もあるかもなー…いやロウ公爵ならそれはないか……。)
何とも移り気で変わり身の早い女だ。一度標的にされた事があるだけに、ゲイルは完全にロウ公爵に同情していた。
「ローザはどうした?」
アヴァロンの問い掛けにローザ付きの侍女が恐る恐る答える。
「そ、それが、こんなに早くロウ公爵閣下が到着されるとは思っていらっしゃらなかったようで……緊張をほぐすために庭園に行かれてしまって……!!」
侍女の額には汗の粒が光っている。
おそらくローザは庭園などには行っていないのだろう。
(…これは…また逃げたな……!!)
見張りは一体何をしてるんだ。もはや呆れて物も言えない。これがバレたらまたルーベルの怒号が飛ぶ。ゲイルは脳内から末端神経へと必死で指令を送る。
(頼むから速く走ってくれよ脚!!)
「それでしたら私も庭園を散歩して参ります。うまくお会い出来たら良いのですが…。」
「すまないな公爵。ローザが見つかり次第知らせに行かせよう。今は薔薇も見頃だ。楽しんでくれ。」
そしてロウ公爵は庭園へと向かい、ゲイルはローザの部屋へと激走したのだった。
***
「……ん…ダメよルー…傷口が開いちゃう…」
「キスだけなら良いだろ?」
脇腹の傷のせいでお預けをくらっているルーベルは、そろそろ我慢の限界なのだろう。キスもこってりと濃厚……いや特濃になっている。
「ダーメ!もう!大人しく寝てて?」
「どこに行くんだ?」
「すぐそこよ。あのね、薔薇が綺麗に咲いてるの。だからお部屋に飾ろうと思って。」
「ちゃんと護衛を連れて行けよ。」
「宮の前だから大丈夫よ。皆さんからもよく見えるでしょ?」
「駄目だ。連れて行け。」
「……わかったわ。」
ここのところルーベルの心配性が増している。色々あったから当然なのだが……
(……目の前のお庭くらい一人でゆっくり歩きたいなぁ……)
と思った所でもう護衛に捕まってしまう。
「アマリール様どちらへ?」
「ふふ、そこです。目の前。だから少しだけ自由にさせて下さい。」
私が窮屈なのがわかるのか、少し距離を置いて見守ってくれるようだ。
「何かあったらすぐ呼んで下さいね!」
「はい。ありがとうございます。」
私はルーの部屋に飾る薔薇はどれがいいか背の低い茂みの中で考えていた。
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