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しおりを挟むシャロンが暮らす塔は、エドナ本城を囲う城壁の一角にある。
四方に配置されている塔は監視塔として使われているが、その中でも海を一望できるこの塔に、シャロンを住まわせることを決めたのはセシルだった。
「今日もお姫様のところに行ってたのか?随分とご執心だな」
本城へと続く歩廊を歩くセシルに、前方から歩いてきた男が声をかける。
セシルはギロリと声の主を睨んだ。
「アレン、お前の部下はどうなってるんだ。あの塔には誰も入れないようにと言ってあっただろう」
「え?誰か入ったの?」
「ヘイルズの娘が入ってきた。お前が職務怠慢でないというのなら、大方買収でもされたのだろう」
「嘘だろ!?俺の部下が!?」
アレンと呼ばれた青年は、やや大仰に天を仰いだ。
彼はセシルが師事した騎士団長の息子で、今は軍の大隊を率いる指揮官だ。
ロートスに侵攻した際、セシルと共に行動していたのも彼だった。
二人は幼馴染という間柄、普段は気安い言葉で接するのが常だ。
「すまない。部下の事はきっちり取り調べておく。それにしても……お前がこんなにもシャロン王女に夢中になる姿を見て、ヘイルズ公爵も相当焦っていると見える」
「娘を妃にする件はずっと断っているというのに……煩わしい」
アイリーンの父であるヘイルズ公爵は、セシルがシャロンと婚約を結ぶ前から、娘を彼に嫁がせようと躍起になっていた。
セシルがシャロンと正式に婚約を結んだ後も、世継ぎの問題など懸念される事項を声高に叫び、第二妃としてアイリーンを娶るべきだと訴え続けた。
「外野でやかましくしている分には構わないが、シャロンに接触するなんて言語道断だ」
「セシル……お前今悪鬼みたいな顔してるよ。そういうのは戦場だけにしておけよ」
「そんなにひどい顔をしてるか」
「……シャロン王女には絶対見せちゃ駄目だ」
もう手遅れかもしれない。
思えばシャロンと再会してから今日まで、ずっと今のような表情をしていた気がする。
彼女を前にすると、思っている事と真逆の言葉が口をついて出る。
それでも緊張して喋る事もできなかったあの頃に比べれば、随分進歩した方なのだが。
シャロンに初めて出会った日のことは、一生忘れられない。
柔らかに波打つ金の髪。エドナの海を思い出させる碧い瞳。
肌は恐ろしいほどに白く、すらりと伸びた細くたおやかな手足に見惚れた。
本当に同じ人間だろうか。
『セシル殿下、シャロンと申します。どうぞ仲良くしてくださいませ』
背が低かったセシルのため、ほんの少し首を傾げ微笑む姿に心臓ごと心を射貫かれた気がした。
その日からずっと、セシルの心の中にはシャロンがいる。
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