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しおりを挟む散々好き勝手に抱き潰したその日から、セシルは毎日のようにシャロンの元を訪れるようになった。
だが、部屋に来たからといって特別何をするわけでもない。
不機嫌そうに向かい合わせに座り、会話もない。
更に言えばセシルはずっとそっぽを向いていて、これが面会という体を成しているのかすら怪しい。
はー……ふー……と、彼のため息ばかりが部屋に響き、シャロンにとって二人でいる時間は苦痛以外の何物でもなかった。
(そんなに嫌ならなぜ会いに来るのかしら)
結局シャロンの処遇についても宙ぶらりんのまま。
外で何が起こっているのかも教えて貰えず、悶々とした日々を送っている。
だがそんなシャロンとは対照的に、侍女たちの表情はいきいきとしていた。
その事に気付いたのはセシルの訪いが始まってから数日経った頃だった。
浮足立つ彼女たちを不思議に思ったシャロンがエイミーに聞くと、『セシル殿下は若い娘たちの憧れなのです』という答えが返ってきた。
セシルはとても強く、彼と互角に戦える者はエドナでもほんの僅かしかいないのだとか。
そしてセシルは後方から指示を飛ばす智将ではなく、最前線で自ら斬り込んで行く猛将。
加えて独身で、顔立ちも整っている。
なるほど、若い女性たちが騒ぐのも頷ける。
『昔は華奢な少年だったのに……』と、シャロンがセシルと初めて対面した当時を思い出していると、エイミーは微笑んだ。
『確かに、幼い頃の殿下は武芸よりも読書などを好まれたそうです。ですが、ある日を堺に人が変わったように鍛錬に励まれるようになったとかで……』
少年期、強い男に憧れて騎士を目指す──なんていうのはよくある話だ。
特に屈強な戦士を数多く抱えるエドナでは、少年だったセシルが感化されるのも必然と言えよう。
──でも、子どもの頃からずっと仏頂面で、不機嫌丸出しなのは変わらないわね
「何を考えている」
突然声をかけられてはっとする。
まさか、『あなたの幼少期の仏頂面に思いを馳せていました』とは言えるわけもなく、シャロンは口ごもった。
二人の間に流れる気まずい空気に気付いたのか、エイミーが紅茶のおかわりを淹れてくれる。
「ありがとう、エイミー」
セシルが驚いたように目を瞠る。
「……なんですか?」
恐る恐る聞いてみると、セシルは『いや……』と、すぐに目を逸らしてしまった。
潮の香りをのせた海風が部屋の中へと吹き込んでくる。
外は快晴で、太陽の光を照り返す眩しい海にシャロンは目を細めた。
「海が好きなのか」
「え?あ、あの……」
「だからエウレカへ嫁ごうと?なるほど、あそこは海軍の立派な船もあるからな」
「ですからそれは誤解だと──」
言いかけて、やめた。
これまでのことで、セシルがシャロンの答えを必要としていないということが、嫌と言うほどわかったから。
「ふん。言い訳すらしなくなったか。案外図太いんだな」
意地悪そうに口の端を上げるセシル。
身体は大きくなったが、中身はまるで子どものようだ。
子どもは時に残酷な事も平気な顔でしてみせる。
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