嘘つきな獣

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 初めて受け入れる異物。
 シャロンの身体は経験したことのない恐怖に強張った。

 「や……いや……っ!」

 だが、どんなに抵抗しても、か弱いシャロンが戦士であるセシルにかなうわけもない。
 長い指がゆっくり、奥まで沈んでは浮かぶ。
 最初は一本だったそれはやがて二本に増え、秘められた場所を無理矢理押し広げ、暴いていく。
 シャロンはただ唇を噛んで耐えることしかできなかった。
 セシルは半身を覆いかぶせ、上からシャロンの反応を見ていた。
 
 「痛くないのか」

 そう言うとセシルは指を引き抜き、淫靡に光るそれを凝視すると、眉間のしわをますます深くした。

 「こんなに濡らして……痛がりもしないとは……そうか、そういう事か」

 どうやらシャロンの反応が気に入らなかったようだ。
 セシルは苛立った様子で膝立ちになると、トラウザーズの紐を解いた。
 
 「ひっ……!」

 目の前で晒された起立する彼の分身は、今にもはちきれんばかりに膨張し、どくどくと脈打っている。
 
 「何を驚くことがある。初めてじゃないんだろう」

 「え……?」

 予想もしなかった言葉に呆気に取られていると、セシルは股の間に身体を割り込ませてきた。
 そして自身を片手で握り、花弁のように重なる桃色の蜜口に擦り付ける。

 「あ、やぁ……ぁ、ぁ……!!」

 シャロンの意思とは関係なしに熱を持って潤むそこを、セシルはより一層腹苛立たしげに睨み付けていた。
 そして自身にシャロンの蜜を纏わせると、先端を蜜口へとあてがった。
 指とは比べ物にならない質量の昂ぶりが、未だ誰も受け入れたことのない隘路あいろを押し開いていく。
 彼が奥へと腰を押し進めるたびに、刃物で皮膚を切られたような、焼け付く痛みがシャロンを貫く。
 (怖い、怖い、誰か助けて)
 だがどんなに助けを求めようとも、シャロンを救ってくれる者などここにはいない。
 恐怖に怯え、身を強張らせるシャロンに、セシルは怪訝な表情を見せた。
 
 「それも演技か」

 質問に答える余裕などない。
 痛みを逃すように引きつった息をするのが精一杯のシャロンを見て、セシルが何かに気付いたように上半身を離した。
 そして二人の繋がる場所を凝視し、愕然とする。

 「な……まさかそんな……初めてなのか……?」

 慌てたように自身を引き抜いたセシルは、そこに広がる光景にショックを受けた。
 シーツに滲み、そして自身に絡みつく鮮血。
 それは紛れもなくシャロンの純潔を証明していた。
 ベッドの上で力なく横たわるシャロンの息はか細く、その眦からは静かに涙がこぼれ落ちていた。
 解放されて安堵したのではない。
 ただ、悲しかった。
 性の暴力が、これほどまでに人の尊厳を奪うとは。
 身体を動かすこともできず、静かに涙を流し続けるシャロンをセシルはしばらくの間呆然と見つめていた。

 「っ……くそっ!!」

 シャロンに向かって悪態をついたあと、セシルは素早く衣服を身に着け部屋を出て行った。
 薄暗い室内にひとり残されたシャロンは、ベッドの上に身体を投げ出したまま、波の音を聴いていた。
 血なまぐさい匂いが鼻を突き、自分の身に起こった出来事を改めて認識させられる。
 惨めだった。
 これから先、こんな事がずっと続けられるのだろうか。
 絶望するシャロンの耳が、こちらに近付いてくる足音を拾った。
 セシルが戻ってきたのだろうか。
 それにしては足音が軽い。
 
 「……っ!!」

 背後で息を呑む音がした。
 おそらく使用人だろう。
 そしてこの状況を見て、ここで何が行われたのか理解したはずだ。
 少しの間を置き、足音は部屋を出て行った。
 そしてしばらくするとまた戻ってきた。
 パチャパチャと水が滴る音がしたと思ったら、温かく湿った布が肌にあてられた。

 「……あなたは……」

 振り返るとそこには世話係の侍女がいた。
 サイドテーブルには湯気の立つ桶が乗っていた。
 すぐに部屋を出て行ったのは、おそらくこれを取りに行っていたのだろう。
 侍女は何も言わず丁寧にシャロンの身体を拭いていたが、痛々しいその部分に差し掛かった時、悲しげに顔を歪めた。

 「あなたのせいじゃないわ……全部私たちが悪いのよ」

 エドナを利用し裏切った形となったロートス。
 あまつさえ城まで落とされた身だ。
 殺されたところで文句は言えない。
 けれど、それならばいっそ殺して欲しかった。

 侍女は一瞬悲しげな目をシャロンに向けたが、その後は淡々と自身の仕事に徹していた。
 
 

 
 
 
 
 
 
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