もう、追いかけない

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 「どうだった?ルツィエルは息災か!?」

 「そ、それが──」

 部下の口から語られた言葉に、ラデクから婚約内定が白紙になったと聞かされた時以上の衝撃が脳天を直撃した。
 マクシムにあれだけ言い聞かせたにもかかわらず、ルツィエルはなぜか夜会に出席することになってしまったというのだ。
 しかし本当に衝撃だったのはこのあとだ。
 ルツィエルは偽物の正体に気付かず、偽物とヤノシュ伯爵令嬢の仲睦まじい姿に傷付き、馬車の中では何度も目元を押さえていたと……

 「で、殿下!!」

 膝から崩れ落ちる私を咄嗟に部下たちが支えるが、足に力が入らず、自力で立つことができない。
 (ルツィエルが、私と偽物の区別がつかなかった?本当に?)

 ──嘘だろう

 いくら同じ血が流れているとはいえ、私のこの顔面に太刀打ちできる奴がこの世に存在していただと……?
 何も考えられず天を仰ぐ私を、部下たちがどんな顔で見ていたのかすらわからない。 
 なぜだ、なぜなんだルツィエル。

 「殿下!ご傷心のところ申し訳ありませんが、緊急事態です!」

 「……ナ……ンダ……」

 部下によると、ルツィエルはヤノシュ伯爵令嬢の突然の訪問を受け、尚且つ偽物からヤノシュ伯爵令嬢の相談役になれと迫られているという。
 (マクシム……あいつ……殺す……!!)

 「いつもルツィエル様を担当している御者が、夜だというのに馬車の整備をしておりました。もしかしたらルツィエル様は領地に避難されるのかもしれません」

 「領地に避難……」

 それはルツィエルにとっていい選択かもしれない。
 しかし何か引っ掛かる。
 偽物は傀儡だ。
 だからルツィエルを相談役にと推したのも、当然バラーク侯爵の考えだろう。
 だがなぜルツィエルを?
 政敵の娘を排除せず手元に置いて監視する意味はなんだ?

 「まさか──」

 私が逃げた事はもうヤノシュ伯爵の耳に入っているはずだ。
 あの小心者が、普段通りに振る舞えるとは思えない。
 ヤノシュ伯爵がボロを出し、始末したはずの私が生きているとバラーク侯爵が知ったら?

 私ならルツィエルを手元に置く。
 標的をおびき寄せて殺すために、ルツィエル以上の餌はない。
 
 ──なら、そのルツィエルが逃げたとしたらどうする?
 
 「ラデク!!今すぐ発つぞ!!」

 「え!?まだ馬の交換も終わってませんよ!」

 「詳しい話はあとだ!すぐ出れる者だけ私についてこい!合流場所はお前たちも良く知ってる、ルツィエルがいつも立ち寄るあの宿場だ!!」

 私は側に繋いであった馬に飛び乗り、急ぎ駆けた。

 ──頼む、間に合ってくれ


 
 
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