もう、追いかけない

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 ヤノシュ伯爵領から連れてきた者たちと別れた後、私はまず帝都にいるという偽物が、どこから来たのか調べることにした。

 ヤンが教えてくれた、事故の数日前にヤノシュ伯爵領に現れたという見慣れぬ馬車。
 その足取りを辿ると、馬車はバラーク侯爵領から出発していたことがわかった。
 バラーク侯爵家はコートニー侯爵家と並ぶ名家だ。
 その歴史は長く、過去には皇妃も出ている家門だ。
 だがバラーク侯爵家は先代と現当主共に女児に恵まれず、先代は養女を迎えたが、父上がその女性を皇妃として召し上げる事はなかったと聞く。
 そんなこともあり、昔は社交界で権威を振るっていたバラーク侯爵家も、今ではすっかりその存在感も薄くなった。

 「……私の偽物を手に入れ、再び権力の座に返り咲こうとでも思ったか。十分あり得る話しだな」

 「あの、殿下……」

 ラデクは言いかけて、言葉を呑む。
 言いたいことはおそらく、その偽物の血筋についてだろう。

 「わかってる。この奇跡のような容姿と瓜二つの人間など、存在するはずがない。だが、もしいるのだとすればそれは、同じ血が身体に流れる者だけだろう」

 偽物が母上の子だとは考えられない。
 国母として、男児を産むのは何よりの誉れだ。
 隠す理由がない。
 それに母上の家系は金髪碧眼。

 「銀髪紫眼はフェレンツ皇家の長い歴史の中でも父上と私だけだ……あのクソ親父……これはゆっくりと親子の時間を設ける必要があるな……」
 
 「殿下、いくら親子といえど、相手は皇帝陛下です」

 「斬りはしない。だが返答次第では殴り飛ばすかもしれない」

 「……殿下を止める力は私にはございません。なので、やるならせめて外から見えない部分にしておいてください」

 果たして父上は、皇宮にいるのが偽物だと気付いているのだろうか。
 そして、その偽物の血筋について問い質した所で、本当の事を言うかどうか。
 (父上は恐ろしいほどの狸だからな……)

 「ラデク」

 「なんでしょう」

 「お前、ちょっと皇宮まで行って、父上の側近拉致ってこい」

 「は?」

 「お前たちなら簡単にできるだろ」

 「できないとは申しませんが……拉致してどうするんです」

 「父上と側近のマクシムが乳兄弟なのはお前も知ってるだろ。クソ親父がすんなり吐くとは思えない。だからまずはマクシムからしばき倒そうと思う」

 狸な父上と違い、マクシムは品行方正。
 そして都合の良いことに気が弱い。
 生まれた時から父上の一番近くですべてを見てきた男だ。
 (絶対に何か知ってるはず)

 「あと部下に命じてマクシムの泣き所もいくつか調べておけ。心配するな、すべて私が責任を取る」

 




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