25 / 71
25 三か月前の真実⑭ エミル
しおりを挟む──ただ乗り込めば済む問題ではない?
「よし言ってみろラデク……この私が、傷付けられたルツィエルを放置しなければならないほどの、どんな問題があるって?」
「殿下、敵は私ではございませんので、どうか殺気をおしまいください。殿下もお気付きなのではありませんか?」
「なにをだ」
「今回の件、ヤノシュ伯爵が一人で計画できるようなものではないと」
確かにそれはずっと思っていた。
だからこそ帝都に戻る必要があるのだ。
真の敵は偽物の側にいて、奴を傀儡のように操っているはず。
「まだ真の敵は動きを見せておりません。今殿下が正面から出て行っては逃げられるだけです」
「……蜥蜴の尻尾切りか。だが、見捨てられたヤノシュがあっさりと口を割るかもしれないだろう」
「敵が素性を明かさずヤノシュ伯爵を操っている場合も考えられます。ヤノシュ伯爵領は決して豊かとは言えません。手っ取り早く金の力を使えば、あり得ない話ではないかと」
「確かにな……」
私はおもむろに、雨漏りがしそうなヤンの家の天井を見上げる。
領民は困窮しているとまではいかないものの、ギリギリの生活といったところか。
「貧しい暮らしを強いられ、人殺しの片棒を担がされたり……とんでもない領主を持つと領民も苦労するな」
ヤンは何か言いたげた顔でこちらを見ている。
さて、どうしたものか。
今すぐにルツィエルの元へ行き、事の真相をすべて話して安心させてやりたい。
だが、今の状況ですべてを知れば、ルツィエルのあの性格だ。
きっと私の役に立とうとして、危ないことにも平気で首を突っ込むだろう。
「それと、殿下にお伝えしなければならないことがもう一つございます」
「なんだ、まだなにかあるのか」
ラデクは苦々しい顔で口を開く。
「これは私の落ち度です。何名かの仲間が姿を消しました」
「殺られたのか?」
「いえ、今は火急の任務もありませんので、それは考えにくいかと。ただ時期が時期なので……ただの懸念で終わればいいのですが、もしかしたら……」
「敵側に寝返った可能性があるということか。それはまずいな」
万が一敵側に引き込まれていたとすると、こちらの行動がある程度予測されてしまう。
それになにより、こいつらは私のアキレス腱がルツィエルだということを嫌というほど知っている。
「ルツィエル様の様子知りたさに、我々をしょっちゅうコートニー侯爵家へ派遣させていたのが仇となりましたね」
「お前、自分の落ち度だと言うのなら、態度も発言ももう少ししおらしくしておけ」
ラデクの、窮地においてもふてぶてしいこの肝の据わり方は高く評価しているが、時々無性に腹が立つ。
「ラデク、皇宮に乗り込むのはやめた。まずは敵側の計画の全貌を暴くのが先だ」
ラデクはあからさまに安堵する。
「行っちゃうの?」
ヤンの手から逃げ出したダナが、いつの間にか隣に立っていた。
「ああ。でも皆一緒だ」
「え?」
ダナはきょとんとした顔で私を見上げている。
「ヤン、今すぐに村の者たちを呼んでこい。ここを出るぞ」
「で、出るって、いったいどこにですか!?」
私の暗殺に関わった者たちだ。
このままここにいたら、間違いなく殺される。
「非常時のための場所がある。各自一日分の飲み水と食料だけ持って来るように伝えろ。揃い次第出発だ」
85
お気に入りに追加
3,573
あなたにおすすめの小説
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
〈完結〉「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる