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第二章

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    アンリを睨み付けたままギャレットはゼノの作り出した赤い檻の柵に手を掛けた。
    ギシギシと空間が軋むような音とともにギャレットの顔に黒い紋様が浮かび上がる。
    (……何あれ…見たことない文字だわ…もしかして呪詛の…呪いの言葉……!?)
    
    「檻を破るつもりか!?おいおい本気かよ!」

    ゼノはギャレットの形相に慌てて術を追加しようとしたが遅かった。柵を無理矢理ねじ曲げるようにして人一人通れるほどの隙間を作ると、ギャレットはそこから身体を捩るようにして出てきたのだ。

    「遊びはここまでだ。さぁ行くぞエルフィリア。」

    紋様の浮かび上がる手を差し出し、ジリジリとこちらに向かってくる。
    
    「エルフィリアに手出しはさせない。」

    「お前には無理だ。」

    アンリの言葉をギャレットは鼻で嗤う。

    「俺と来いエルフィリア。そうすればお前をこの世を統べる王となる俺の妃にしてやる。」

    (この世を統べる王!?何言ってるのこの男…)

    「お前の望む物は何でもやろう。宝石やドレスなんてケチな物じゃない。国だ。国をお前に与えてやってもいい。」

    「国!?何を馬鹿な事言ってるの!?」

    「冗談ではない。なら国一つ滅ぼすのは簡単な事だ。どうだ?考えてみる気になっただろう?」

    !?ってローゼンガルドの事?それともまさかシャグランの民?

    ギャレットはアンリとエルフィリアのいる寝台の手前まで来た。しかしその時だった。

    「こっちだ急げ!早くしないと姫様が危ない!!」

    大勢の人間がこちらへと駆けてくる音が聞こえる。
    (この声…騎士達ね!!)
レニーが知らせてくれたのだろうか。とにかく相手の正体が見えない今は加勢の数は多ければ多いほどありがたい。おそらく魔法使いも数名来ているはず。

    「ゼノ!もう一度術をかけるわよ!!今度は全員で!!」

    今度こそ逃さない。エルフィリアは部屋全体に結界を張るため魔法の詠唱を始めた。
    ギャレットは眉間に皺を寄せ、迫り来る足音を聞いている。
    (…もしかして諦めた……?)
    しかしエルフィリアの読みは外れる。
    ギャレットは懐へと手を伸ばし、何かを取り出した。

    「…次は絶対にお前を連れて行く。覚悟しておけエルフィリア。そしてお前…」

    禍々しく邪悪な目付きでアンリ様を指差し睨み付ける。

    「シャーとか言ったな。…お前は殺す。」

    そう言うと手に持っていた物を上へとかざした。

    「魔法石!?」

    さっきの得体の知れない力とは違う。これは私達魔法使いには身近な力。こうなる事を予想していたのかあらかじめ用意していたのだろう。魔法石に込められていた転移魔法が発動した。

    「待ちなさい!!」

    エルフィリアの叫びも虚しく、最後に嫌らしい笑みを見せギャレットは消えたのだった。



    



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