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第一章
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しおりを挟む「私の答えに激怒した神殿は…父の命を奪いました。」
「えっ!?」
「正確には…父の弟、叔父上を操り殺させたのです。」
ど、どういう事!?
じゃあ今のローゼンガルドの王はアンリ様のお父上じゃないって事!?
「…叔父上は心優しい方だった。王位など望むような方ではなかったのです。しかしファルサに出会った叔父上は変わってしまった……。」
王弟殿下はファルサの力に心酔し、ファルサこそがこの国の守り神であると公言した。
「叔父上には男子が一人いる。今この国は叔父上とその息子が実権を握っているのです。」
「で、でも、ファルサに心酔してて息子がいるならなんでその息子とファルサを結婚させないの!?神殿側だってそれで問題解決でしょ?」
「それは……ファルサが私を望むからです…。私以外の妃にはならないと。私を第一王子の座から排除し自分を他者と婚姻させると言うのならこの国を呪い災いを起こすと……。」
「なんで……どうしてそんなにもアンリ様を?」
それはわからないとアンリ様は首を振る。
「ファルサを拒む私の命を繋ぐために母もまた命を落とした……。すべて私のせいです。私がファルサを受け入れてさえいればこんなことは起きなかったのに……。」
そんな…そんな事はない。
きっとファルサを妃に迎えていたとしても同じことが起こったはずだ。同じとは言えなくても似たような事が。
私はうつむくアンリ様が可哀想になった。
冷たく白いその手を優しく包むとアンリ様は顔を上げる。
「…アンリ様のせいじゃないわ。だから自分を責めちゃダメ。心が健やかじゃないと、身体はもっと悪くなってしまうの。」
唯一の味方すら失ったのだ。心を健やかに保つなんて無理なのはわかる。そしてアンリ様の病は人の手によるものだ。精神論でどうにかなるようなものでもない。でも…
「アンリ様は生きている。だから後悔しないように生きる道も選べる。私もそうよ。」
根気よく擦るとアンリ様の手には温かさが戻ってきた。
「……ローゼンガルドを閉鎖したのも神殿側の考えです。目的はわかりません。」
「あの……ローゼンガルドは軍事力を持っていますか?」
「軍事力?いえ……我が国は最低限の防衛力しか持ち合わせない国です。こんな極寒の地を手に入れようなんて物好きな国もありませんし……」
それはおかしい……この国は一年後にはグレンドールを一夜で滅ぼす圧倒的な力を持っていたのだ。
「あの…疑う訳ではないのですが、それは本当ですか?」
思いっきり疑われてる感があったのだろう。アンリ様は少し微笑んだ。
「では一緒に見て回りましょうか?」
「え!?いいの!?」
私から咄嗟に出た答えに彼はまた笑う。
「大丈夫です。次はいつ来て下さるのですかエルフィリア?」
不意に名前を呼ばれてドキッとする。
次はいつ……
「アンリ様はどれくらいで具合が悪くなりますか?」
あの頃は毎日だった。今はどれくらいの頻度で力が必要なのだろう。
「それが……ひどい時もあれば今回のようにゆるやかに悪くなって行く時もある。何とも言えないのです。」
何それ……まるで誰かにコントロールされてるみたいじゃない。怪しすぎる。私も知りたい。一体誰が何のためにそんな事をしてるのか。
「アンリ様?私、明日また来ます。いいですか?」
「……もちろんです。」
アンリ様は優しく微笑んでくれた。
「じゃあ今日はとりあえず戻りますね…あっ!そうだ!」
不思議顔のアンリ様に私はポケットの飴ちゃんを差し出す。
「ふふ。元気のお薬あげます。」
一つ渡してもう一つは自分の口に放り込んだ。
「また明日持ってきますね。」
「……はい。待っています。エルフィリア。」
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