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第二章
#40
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この邸宅に住まう主の部屋は、すぐに見当がついた。
贅をふんだんに凝らし尽くした両開きの扉。
もはや書き記すと同等なまでの存在感であった。
鍵は掛かっておらず、勝手に入室したキュラとソムは手当たり次第に室内の探索を開始した。
やや躊躇いがちに引き出しなどを開けて確認するソムとは対照的に、キュラは何ら躊躇することもなく、あちこちの収納を開けたりひっくり返している。
しかし、いくら探そうとも目当ての物は見つからなかった。
「無いね・・・・・・」
「うん、無い」
ぐるりと室内を見回して、まだ探していない場所はないか確認する二人の目に、ふと留まるものがあった。
部屋の片隅に鎮座している重厚な金属製の箱型ーーー金庫だ。
おそらく、あの中だと視線で意志を交わした二人は近寄るも、当然鍵が掛かっているため開かない。
「駄目だ、開かない・・・・・・」
無念の言葉をこぼして俯くソムの肩にそっと触れた手は、やんわりと後ろへと下がらせる。
顔を上げると、キュラが笑顔を浮かべていた。
言葉にしなくても、大丈夫だよと言われているような気がして、何をするのか見ているとーーー
突然、激しい音が一つその場に響いた。
驚いて、思わず大きく肩を竦めたソムは、信じられない光景を目の当たりにする。
金庫が、大きくへこんでいた。
もう少し正確に言えば、拳打の一撃を打ち込まれてその破壊力に耐えきれずに、一部が歪んだ形状を成してした。
「え? え?」
思わず呆けたような声をもらして、ソムは金庫とキュラを交互に見る。
この場には自分を除けばキュラしかいない。
やったのは当然、キュラだ。
だが、その細腕が鋼鉄製の金庫を変形させたという衝撃的すぎる事実を、すぐには受け入れられなかった。
呆気に取られるソムの事など構いもせず、キュラは立て続けに拳を振るい続ける。
その度に激しい音は連続で鳴り響き、金庫は見る見るうちにその形状を変えていく。
耳を聾する音は、これが生身の拳が金属に打ち当たる音とは思えないほどであり、ソムは手で耳を押さえて鼓膜を守りにかかる。
やがて、数に喩えるならば十も数えないうちに、元の角張った形状を失った金庫は、無惨な姿と成り果てていた。
驚愕のあまり、開いた口の塞がらないソムの前で、キュラは歪みから生じた隙間に手を差し込むと、そのまま引き剥がす。
いとも簡単にやってのけたが、引き剥がす際にベキンッ! と金属が断末魔の音を響かせたことから、見た目とは裏腹にとてつもない力技であることが理解できた。
自分は夢でも見ているのではないかと、現実感を失いかけたソムだったが、扉を失った金庫の中に翠色の輝きを見つけた途端、慌てて傍に寄った。
「あった! 父ちゃんの資格証!」
翡翠を削り出して作られたそれは、売れば相当な値になるだろう。
だが、どんなに金に困ったとしても、その資格証を自ら手放す者はいないはずだ。
刻印師にとっては命と同等なまでの宝物。
絶対、ここにあると確信してはいた。
けれど、取り返すには度胸も力もまったく足りなくて・・・・・・
それが今、自分の手の中にあることが信じられなかった。
その感触を確かめるように、手に力を込める。
夢じゃない。幻じゃない。今、確かに取り返したくて止まなかった物が、自分の手の中にある。
「ありがとう・・・・・・!」
感極まるあまり、涙を流すソムを見て、キュラは心底嬉しそうに笑って見せた。
贅をふんだんに凝らし尽くした両開きの扉。
もはや書き記すと同等なまでの存在感であった。
鍵は掛かっておらず、勝手に入室したキュラとソムは手当たり次第に室内の探索を開始した。
やや躊躇いがちに引き出しなどを開けて確認するソムとは対照的に、キュラは何ら躊躇することもなく、あちこちの収納を開けたりひっくり返している。
しかし、いくら探そうとも目当ての物は見つからなかった。
「無いね・・・・・・」
「うん、無い」
ぐるりと室内を見回して、まだ探していない場所はないか確認する二人の目に、ふと留まるものがあった。
部屋の片隅に鎮座している重厚な金属製の箱型ーーー金庫だ。
おそらく、あの中だと視線で意志を交わした二人は近寄るも、当然鍵が掛かっているため開かない。
「駄目だ、開かない・・・・・・」
無念の言葉をこぼして俯くソムの肩にそっと触れた手は、やんわりと後ろへと下がらせる。
顔を上げると、キュラが笑顔を浮かべていた。
言葉にしなくても、大丈夫だよと言われているような気がして、何をするのか見ているとーーー
突然、激しい音が一つその場に響いた。
驚いて、思わず大きく肩を竦めたソムは、信じられない光景を目の当たりにする。
金庫が、大きくへこんでいた。
もう少し正確に言えば、拳打の一撃を打ち込まれてその破壊力に耐えきれずに、一部が歪んだ形状を成してした。
「え? え?」
思わず呆けたような声をもらして、ソムは金庫とキュラを交互に見る。
この場には自分を除けばキュラしかいない。
やったのは当然、キュラだ。
だが、その細腕が鋼鉄製の金庫を変形させたという衝撃的すぎる事実を、すぐには受け入れられなかった。
呆気に取られるソムの事など構いもせず、キュラは立て続けに拳を振るい続ける。
その度に激しい音は連続で鳴り響き、金庫は見る見るうちにその形状を変えていく。
耳を聾する音は、これが生身の拳が金属に打ち当たる音とは思えないほどであり、ソムは手で耳を押さえて鼓膜を守りにかかる。
やがて、数に喩えるならば十も数えないうちに、元の角張った形状を失った金庫は、無惨な姿と成り果てていた。
驚愕のあまり、開いた口の塞がらないソムの前で、キュラは歪みから生じた隙間に手を差し込むと、そのまま引き剥がす。
いとも簡単にやってのけたが、引き剥がす際にベキンッ! と金属が断末魔の音を響かせたことから、見た目とは裏腹にとてつもない力技であることが理解できた。
自分は夢でも見ているのではないかと、現実感を失いかけたソムだったが、扉を失った金庫の中に翠色の輝きを見つけた途端、慌てて傍に寄った。
「あった! 父ちゃんの資格証!」
翡翠を削り出して作られたそれは、売れば相当な値になるだろう。
だが、どんなに金に困ったとしても、その資格証を自ら手放す者はいないはずだ。
刻印師にとっては命と同等なまでの宝物。
絶対、ここにあると確信してはいた。
けれど、取り返すには度胸も力もまったく足りなくて・・・・・・
それが今、自分の手の中にあることが信じられなかった。
その感触を確かめるように、手に力を込める。
夢じゃない。幻じゃない。今、確かに取り返したくて止まなかった物が、自分の手の中にある。
「ありがとう・・・・・・!」
感極まるあまり、涙を流すソムを見て、キュラは心底嬉しそうに笑って見せた。
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