神殺しの英雄

淡語モイロウ

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第一章

#03

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 泣いている。
 誰かが、泣いている・・・
 泣いている一人の女性の姿が見える。
 彼女は泣きながら、ずっと謝り続けていた。
 ごめんなさい。あなたにそんな呪いを負わせてしまってごめんなさい、と。
 あの日・・・僧院に発つ前夜。母親であるその女性は、息子にそう謝り続けていた。
 決して部屋に踏み入ることなく。もしも、一歩でも部屋に入ろうものならば、自分が息子に災いをもたらすものになってしまうから。
 女に関わると不幸な目に遭うという、前世から持ち越した呪いは、肉親であろうと容赦なかった。
 母はずっと、生まれたときから息子が災難に遭うのを間近で目の当たりにしてきた。
 それが、自分のせいだと知ったとき、どれほどの衝撃を受け、心を痛めただろう。
 泣かないで、と言いたかった。貴女のせいではない。貴女は何も悪くないと。
 しかし、そんな安い気休めの言葉では何の解決にもならないことを、まだ子供であっても理解していた。
 どんな言葉なら、慰めになっただろう。自責に苛むその心を救ってやれるのだろう。
   子供なりに必死に考えた。しかし、結局何も思いつかず、何も言えず・・・
 そうしているうちに、ただ徒に時間だけが過ぎていき、遂には朝をーーー別離の時を迎え、二人は今生の別れにも等しく、引き離されることとなった。


 目が覚めて、まずエリックの目に映ったのは見慣れた天井だった。
 毎日のように寝起きしている自警団宿舎の一室ーーーエリックの部屋。
 必要最低限の広さと家具しか置かれていない室内は夜明け前でまだ薄暗い。
 寝台の上でぼんやりと天井を見つめている内に、徐々に現実味が戻ってきた。
 ーーー懐かしい夢を見たものだ。
 小さく息を吐きながら、先程まで見ていた夢を思い返す。
 エリックの幼少期の記憶・・・まだ家族と暮らしていた頃の、懐かしくも温かい思い出の数々。
 目を閉じれば脳裏に浮かび上がる故郷の風景。そして、あの人の泣く姿ーーー
 夢の残滓を振り払うように、エリックは勢いをつけて上半身を起こした。
 起床時間にはまだ早いが、目が覚めた以上起きてしまう方がいいだろう。二度寝して寝坊しようものなら、行動を共にするあの出世魔に延々と嫌みと小言を言われるのは目に見えている。
 大きく、深く息を吐き出して、夢見の悪さと決別するべく、エリックは寝台から立ち上がった。
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