23 / 23
残響
.
しおりを挟む(んー……何だか温かい)
とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!
(これが……本当の幸せ)
───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。
全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。
(初めてのお友達……)
愛とか恋とかはよく分からなかった。
それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。
(ありがとう、カイザル───)
「……眩し…………朝?」
そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
陽の光がかなり眩しい。
もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
(今、何時かしら? どうして誰も起こしてくれな───)
「ん?」
そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。
「ひっ! 腕……人間の腕、よね?」
最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。
「これは…………ハッ!」
そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──
(たくさんキスをされた気がする! それで、私……頭の中がトロンとして……)
「え……まさかの寝落ち?」
そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
そうなるとこの腕、それとこの温もりは───
(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)
私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。
「うっ……ん…………」
「は! カイザルもお目覚めかしら?」
私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。
「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」
すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……
私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。
「カイザル───ありがとう」
シェイラを強く想ってくれて。
そして、コレットを見つけてくれて───
────
「……ん? コレット?」
「───おはよう、カイザル」
どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。
「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」
私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。
「──!?」
これまで見たことのないその笑顔? に私は大きく戸惑った。
(……もう! 本当にカイザルがわけ分からないわ!)
小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……
(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)
そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。
「ねぇ、カイザル!」
「ん~? コレット?」
「……っ」
カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
ちょっと今聞いても大丈夫かな? と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。
「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね? あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」
私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。
「え……」
何故ここで顔が赤くなる?
「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」
躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。
「……」
「カイザル!」
「う! ………………から」
ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。
「シェイラが……」
「シェイラ? どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」
私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。
「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」
そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。
───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
───そうみたい
───ふーん……
(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)
「え! そ、それで……?」
「……」
私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
そして必死な顔で私に言った。
「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」
(────やだ、可愛い!)
そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。
「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」
いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───
「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ? 私はあなたが好きよ」
「コレット……」
カイザルの目が大きく見開かれる。
「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ! 毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」
と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。
「んっ……」
(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)
なんて思った。
───
そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。
「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」
────と。
今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───
「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」
何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。
(は、話を変えるのよ……)
イチャイチャな雰囲気じゃない話に! そうすれば……
と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。
「そ、そうよ! カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話
黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓の無い完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥る。
すると聞こえてきた謎の声──
『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』
だが、この場にいるのは五人。
あふれた一人は、この部屋に残されて死ぬという。
生死を賭けた心理戦が、いま始まる。
※無断転載禁止
人形の輪舞曲(ロンド)
美汐
ホラー
オカルト研究同好会の誠二は、ドSだけど美人の幼なじみーーミナミとともに動く人形の噂を調査することになった。
その調査の最中、ある中学生の女の子の異常な様子に遭遇することに。そして真相を探っていくうちに、出会った美少女。彼女と人形はなにか関係があるのか。
やがて誠二にも人形の魔の手が迫り来る――。
※第1回ホラー・ミステリー小説大賞読者賞受賞作品
音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集
ねぎ(ポン酢)
ホラー
短編で書いたものの中で、怪談・不思議・ホラー系のものをまとめました。基本的にはゾッとする様なホラーではなく、不思議系の話です。(たまに増えます)※怖いかなと思うものには「※」をつけてあります
(『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)
ルッキズムデスゲーム
はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』
とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。
知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。
都市伝説ガ ウマレマシタ
鞠目
ホラー
「ねえ、パトロール男って知ってる?」
夜の8時以降、スマホを見ながら歩いていると後ろから「歩きスマホは危ないよ」と声をかけられる。でも、不思議なことに振り向いても誰もいない。
声を無視してスマホを見ていると赤信号の横断歩道で後ろから誰かに突き飛ばされるという都市伝説、『パトロール男』。
どこにでもあるような都市伝説かと思われたが、その話を聞いた人の周りでは不可解な事件が後を絶たない……
これは新たな都市伝説が生まれる過程のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる