怪異の忘れ物

木全伸治

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闇に擬態

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人間は、本能的に暗がりを恐れる。それは、闇の中に危険な物が潜んでいると本能的に知っているからだ。それは黒くただ闇と同化して、人を襲う。しかも、悲鳴を上げる間もなく、襲われてしまうから、今まで、誰にも知られずに存在した。だが、本能でそれが危険だと知っているから人間は闇を警戒し、恐れていた。俺も、それで暗闇が苦手で、子供の頃からそういうところを避けていた。だが、俺が闇を怖がっていると知ったバイト仲間は、山に遊びに行くという口実で、古びた廃墟に連れて来た。
その廃墟の旅館の地下にある大浴場跡には、出るという噂があり、仲間はそこに俺を連れ込もうとした。
「お前、怖いのかよ。ビビりだな。俺が先に行ってやるから、後ろからついて来いよ」
そう言って、勝手に廃墟の中に入って行き、俺は呆れつつも仲間を追いかけて廃墟に入った。元はきちんと施錠されていたのだろうが、俺たちみたいに勝手に侵入する者が多いらしく、俺たちも楽に中に入れた。
中は、思ったよりも奇麗だった。ただ、電気は通っていなくて、一部の窓には板がはめられていて、中は薄暗かった。当然、地下の大浴場へ続く階段はもっと暗かった。スマフォのライトをつけて、どんどん先に進む。
「こっち、こっち。早く来い」
正直、怖かったが、ここでビビって見せたらバイト先でしばらくバカにされると思い、ちょっと我慢して地下に降りた。
だが、地下に降りると本当に真っ暗で、俺を怯えさせるために一時的にスマフォのライトを消したらしく、仲間の姿が見えなくなった。
どっちに行ったのか分からず、一階からの光が届く、階段のそばから動けなかった。
「おい。こっちだって・・・」
呼ぶ声が確かにしたが、それは一瞬で、聞こえた先は真っ暗で、俺は恐る恐る自分のスマフォのライトを点灯して、そっちに向けたが、俺のライトの届く範囲には誰もいなかった。
怖かった。頭の片隅では闇に対する恐怖があり、逃げ出したかったが、ここでビビッて逃げ出したら、これからずっとバイト先で笑いものになるだろう。
だから、闇をすすんだ。真っ黒で闇に紛れるバケモノを恐れていた俺は、本能的に正しかった。
結局、俺たちは二度とバイト先に顔を出さなかったし、バイトが急にいなくなっても、世間的には大騒ぎにはならない。
そうして、暗い闇の中で人間を待ち構えている黒いそいつのことは、未だに誰にもバレていなかった。
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