怪異の忘れ物

木全伸治

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首を長くして待つ

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彼女は、俺のことを首を長くして待っていたらしい。そういう押し付け的ないかにも愛していますという態度が鬱陶しくて、仕事が忙しいと言って彼女に会うのを控えていた。もう別れて、新しい女を探そうと考えて会うのを避けていた。彼女からの着信もメッセージも、すべてスルーするようになった。こちらが別れたがっていると察してくれたらよかったのだが、彼女はそういう女ではなかった。ひたすら、俺が会いに来るのをジッと待つような女だった。
そしてようやく、メッセージも着信もなくなってホッとした頃、俺たちの共通の知人から彼女が自殺したという連絡があった。俺は何も知らなかったし、当然、葬式にも出なかったから、その共通の知人からひどいと批判された。
俺だって、知っていれば、彼女の知人として葬儀に参列しただろう。だが、彼女は遺書などは残さず、俺のことも誰にも伝えず自殺したようで、俺は本当に知らずにいたのだ。
さすがに、彼女にひどいことをしたという自覚はあった。だが、死んだ相手にどう償えばいいか分からない。彼女の自殺の原因が俺が無視したせいかもと遺族に伝える度胸は、俺にはなかった。いや、下手に遺族と接触して、娘を返せと迫られたらどうしようという臆病風が強かった。
そうして迷っているうちに彼女の方から俺に会いに来た。いわゆる怨霊ってやつだろう。首つり自殺をしたらしく、その首は異様に伸びていた。
後から知ったが、首つり自殺は、最初の踏み台を外した瞬間に首がポキリと折れないと即死できなくてしばらく苦しいのだそうだ。だから、絞首刑を行う場合、首に縄をかけるだけではなく、足元に深い穴を用意し、落とし穴のように囚人の身体が落ちるようにする。そうすると首の縄で引っ張られ、身体がブランとして自分の体重で首の骨が折れて楽に死ねるのだ。だが、そんな場所が用意できず、手近な場所で首を吊ったらしい彼女は、首が折れずに即死できずにしばらく苦しんで窒息死したようだ。
その証拠に俺の前に現れた彼女の首は少し伸びて、首元にしっかりと縄の跡とと苦しんでもがいて首の縄を引っ掻いたような傷があった。
「ひっ」と俺は逃げようとしたが、それよりも早く彼女の首が伸びて俺に巻き付いた。
ろくろ首というヤツだ。もしかしたら、昔からろくろ首と呼ばれるすべての妖怪は首つり自殺をして死んだ幽霊のことをさしていたのかもしれない。
とにかく、俺は伸びた彼女の長い首に蛇のように巻き付かれて、最期に自分の首がゴキッと折れる音を聞いた。
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