怪異の忘れ物

木全伸治

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思いつき登山

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死んだ後も、髪や爪などが少しは伸びるという。だが、実際は皮膚の水分が抜けて伸びたように見えるだけだが、そんなことどうでもよかった。俺の首に深く食い込んだ彼女の爪の痛みは本物で、本気で俺を殺そうとしていると分かる。
彼女の遺体が崖下で見つかったと聞いたのは、まだ昨日のことだ。警察の検死があるからとお通夜や葬式も、まだこれからだったのだ。もし、お通夜や火葬が終わっていたら、彼女の魂はあの世に無事に行っていたかもしれない。だが、まだ火葬されていない彼女は、真っ先に怨霊として俺のところに来たようだ。
恨まれても仕方ない。俺は、首を絞められながら、そう思った。
一週間ほど前だ、おれたちには登山経験がなかったが、思いつきで、近くの山に登山デートをすることにした。日帰りで軽いハイキング気分で、その山に登った。当然、ろくな装備もなく、スマフォの位置情報を頼りにその山を登った。だが、登山経験もなく、適度に休んで登らず、山に不慣れだった彼女の足が、どんどん遅くなり、「きゃっ」という小さな彼女の悲鳴を聞いて、ハッとして俺が振り返ったときには遅れて後ろを歩いていた彼女の姿が消えていた。
慌てて辺りを見渡し、自分の歩いている登山道の片側が、茂みで隠れていたが、急な崖になっていて、木の枝が折れて、何か重いものが滑り落ちて行った形跡があった。
俺は気が動転し、ここにいたら俺が突き落としたと疑われると考えて怖くなり、慌てて一人で山を下りた。そして、ひとりで家に帰る途中であの場ですぐに警察に連絡してちゃんと説明すれば疑われなかったんじゃないか、むしろ慌てて逃げ出してしまって逆に犯人扱いされてしまうのではないかと後悔した。きっと交通事故の轢き逃げ犯も、こんな感じで気が動転して現場から逃げ出していたんだろう、罪が重くなると分かっていても、一旦逃げ出してしまい後で後悔して轢き逃げの自首をするのは、かなり勇気がいるだろう。俺も、家に帰る途中で、何度か今からでも警察に話そうか迷ったが、結局できずに、一週間ほどが過ぎて、彼女の遺体を誰かが見付け、所持品からすぐに彼女と特定され、俺と一緒にあの山に登ったことは警察の調べですぐに明らかになるだろう。
だったら、このまま彼女に殺されてもいいかと思ったが、ふと彼女の髪が異様に長すぎるのに気づいた。いくら死後、少しは髪が伸びるとしても伸びすぎで、俺は、ようやく、その長い髪を振り乱して俺の首を絞めている女が彼女ではないと気づいた。
「だ、だれだ、てめぇ・・・」
山で死んだ彼女が、山から良くないものを連れて来たのだろうか。俺は慌てて抵抗しようとしたが、手遅れだった。


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