怪異の忘れ物

木全伸治

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雨上がりに殺人を

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最初は、ちゃんとした殺害動機はあった。幸せそうな親子を見て、なんで、俺の妻子はここにいないんだと、衝動的ではあったが、一応、筋の通った理屈はあった。気づいたときには、その親子を車道に突き飛ばし、幸い、目撃者や近くに防犯カメラはなかったので、俺の犯行だと分からずに、その親子を通りすがりのトラックに轢かせた。
朝まで飲んで騒いだバカな大学生四人組が、夜降っていた雨が朝方上がって、朝焼けが奇麗だったので、酒が抜けきっていない状態でドライブに出かけて、幼稚園に向かう途中だった俺の妻子を横断歩道で撥ねたのが悪い。
警察は優秀だったので、現場の遺留物からすぐに彼らを捕まえた。
だが、彼らは、俺の妻子を殺したことを反省しておらず、しかも、彼らの親たちが、バカな子ほどかわいいらしく、俺に一生何もしなくても暮らしていけるほどの大金を持って来て和解を求めて来た。最初、和解に応じないつもりだったが、このままダラダラと裁判を続けて彼らが実刑になっても、若い彼らは、刑期を終えても、やり直せる年齢だろうと思うと、なんか裁判を続けるのがバカバカしくなったし、裁判の度に、妻子がどういうふうに死んだか、検証されるのは、傍聴席で聞いているのがきつかった。
本当は、その妻子を殺した大学生たちの命を狙えれば、よかったのだが、裁判に出廷した際には必ず警備がいたし、どこの刑務所に収監されるかもわからなかった。だから、彼らの親から、慰謝料を黙って受取り、被害者遺族が慰謝料を受取ったことを理由に彼らの刑期が短縮されるのを黙認した。
妻子の代わりに大金を得た俺は、仕事をやめてぶらぶらし始めた。それが良くなかったのだろう。雨上がりの歩道で、通りすがりに親子を車道に突き飛ばし、警察につかまらなかったので、それから、雨上がりになると人を殺し始めた。
次に狙ったのは、俺の妻子を撥ねた大学生たちと同い年ぐらいのチャラチャラ遊んでそうな奴らを狙った。
どうも、大学生には、真面目に勉強するなんてもったいない、若いんだから、遊ばな損と思っている連中が多いようで、俺が狙うべき獲物は多かった。
車道に突き飛ばすだけでなく、中古車を購入して、雨上がりの夜、酔っ払って騒いでいた大学生連中を次々と撥ね飛ばした時は気分爽快だった。
もちろん、あの大学生を捕まえたように警察は優秀だったから、俺も捕まるのは時間の問題だと思って、雨上がりに積極的にひとを殺した。
妻子のいない、この世に未練はなかった。だから、俺は、たくさん人を殺すことで、誰かが俺を恨み、復讐のために俺を殺してくれるのを望んでいたのかもしれない。が、警察に捕まった俺は、誰かに復讐されることなく、雨上がりの午後に、死刑が執行された。
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