怪異の忘れ物

木全伸治

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雨上がりの虹

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雨上がりの虹は、天国への階段と、俺は真面目に信じていた。妻を亡くして頭がおかしくなっていたのかもしれないが、本気で信じていた。そして、その虹を渡れば、妻に会えると本気で思い込んでいた。
だが、虹というものは、大抵は空に浮かんでいるのもので、その端に辿り着いて渡ることなどできない。だから、俺は、虹の出やすい場所を探して、あちこちの山を登った。しかも、雨上がりの虹を求めていたから、天候の悪いときばかり登っていたのが、いけなかったのだろう。
俺は崖から滑り落ちたらしい。らしいというのは、落下前後の記憶が曖昧で、
目を覚ました時には、病院のベットの上だった。崖下に落ちた俺は偶然通りがかった登山者に助けられ、レスキューに病院まで運んでもらって一命をとりとめた。
それ以来、雨上がりの虹は探していない。実は、病院に運ばれて意識を取り戻すまでの間、夢を見ていた。俺は確かに雨上がりの虹を渡っていた。が、虹の途中で、妻が立っていて、「まだ、こっちに来るな」と怖い顔で、虹から蹴落とされて、病院のベットの上で目を覚ました。あんな顔をされて、現世に戻されたら、もう一度、雨上がりの虹を渡ろうとは思わない。
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