怪異の忘れ物

黒塗り

アニメや漫画の影響で、犯罪が増えると本気で思っている人たちがいた。彼らは、影響があるという客観的なデータを持っていなかったが、自分たちのお気持ち、つまり感情で、アニメや漫画があると性犯罪が増えると本気で信じて規制に奔走した。
そして、彼らは感情論だけで世論を動かし、アニメや漫画の規制を本格的に始めた。彼らが不適切だと決めたものはすぐに黒塗りにされて、しかも、その基準が曖昧で、この女の子のキャラは性的だから黒塗りと漫画をどんどん塗りつぶしていき、萌えキャラを使った広告イラストも不適切だとして黒く塗りつぶしていった。
どうして塗りつぶされたのか、どこが問題だったのか問いただしても、曖昧な返答で、とにかく不適切だからという彼らの主観がまかり通り、黒塗りは増えて、ついには子供と海に遊びに行った写真をブログに上げたら、水着を着て海で遊んでいる子供の画像が児童ポルノだとして画像の黒塗りを要求するようになった。そうして、どんどんエスカレートしていき、当然、反発も起きた。
そして、ある日、それを推進していた国会議員が、暴漢たちに黒いスプレーを吹きかけられるという事件が起きた。
幸い、スプレーを吹きかけられただけで、怪我はなく、着ていた服が汚れただけで済んだが、襲撃された議員はテロだとか、こんなことでは屈しないと叫んで黒塗りの強化を進めた。
すると、その国会議員の家族の好きな作品まで黒塗りになったので、奥さんは息子たちを連れて離婚した。さすがに家族がバラバラになると、その国会議員の熱も冷め、また世間もやり過ぎではないかと思うようになり、自然と黒塗り規制が緩くなった。
やり過ぎて家族を失った国会議員は自宅を黒いスプレーで落書きされて、家に閉じこもりがちになり、外から見られない様に窓を閉め切って、孤独に真っ暗な家の中で自殺した。