怪異の忘れ物

木全伸治

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いわく品は返ってくる

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昔から、丑の刻参りや呪いの藁人形というものが存在するように、誰もが一度は誰かを呪い殺したいと願うものだ。
だが、そのよく知られている藁人形でさえ、それを行えば確実に誰かを呪い殺せるという保証はない。つまり、恨みを抱いたとき、ひとは呪殺について大抵は素人だ。ネットでいくら調べても、絶対に狙った相手を呪い殺せる方法など見つかるものではない。たとえネットの検索に引っ掛かってもほとんど眉唾物の偽物ばかりである。だが、誰かを呪い殺したいという需要はいつの時代でもある。そこで、持ち主を必ず不幸にするといういわくつきの品をレンタルする商売が生まれた。いわくつきの品を呪い殺したい相手に送るだけなら、つらく面倒な修行などいらない。つまりど素人でも簡単に呪殺ができるというわけだ。
例えば、彼を友達に寝取られたら、その復讐のために持ち主が不幸になるといういわくの指輪をその友達に送るだけでいい。いわくつきの品は見た目は魅力的なアンティークで高級品の場合が多いので、もらった方は単純に喜ぶ。
他には不倫した夫の制裁のために、妻が夫の車が故障中と理由をつけて、いわくつきの事故車を代車だといつわるだけでもいい。
あとは、そのいわくつきの品たちが、一時的な持ち主を確実に呪ってくれる。
いわくつきの品を呪いたい相手に送りつけるだけで呪殺できるのだ。とても簡単で、需要は多く、しかも、類は友を呼ぶらしく、口コミでどんどん広がり、いわくつきの品のレンタルはもうかった。別にレンタルではなく、単純に高値で売り付けても良かったが、いわくつきの品というものは持ち主を殺してしまうので一所に長居できず、レンタル料を渋って、そんなもの借りていないとしらばっくれても、いわく品は近くにあるだけでも周りを不幸にするので、ちゃんとレンタル料を払って誰もがきちんと返品した。
いくらケチって、レンタル料をバックレようとしても、いわくつきの品は、借り主含め関係者全員を不幸にして、必ずこっちに戻ってきた。いわくつきの品としては、次々と借主が代わって一人でも多く不幸にしたいようだった。
だから、私も、そのレンタル品を自分の手元にあまり長く置かないように自転車操業のように必死でレンタルし続けた。
もしかしたら、いずれ、すたれて借りてくれる人がいなくなって、そのいわく品たちが私のところに帰って来て、私を一斉に呪うかもという結末を予想はしているが、いまさら辞めたら間違いなく呪いは私に集るだろうし、私にできることは、その結末を少しでも先延ばしにするよう頑張ることだけだった。


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