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犬の鳴き声
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犬の鳴き声がうるさいと、隣のおばさんが家に乗り込んできた。だが、怒鳴り込まれても、私はキョトンとしてしまった。隣のおばさんとはいっても、こちらは最近越してきたばかりで、一応、引っ越しの挨拶でお隣には訪れていたが、ちょっと挨拶したぐらいで、まだ親しくはなかった。
おまけに、うちでは犬を飼っていない。だから、そう伝えたのだが嘘を付くなとそのおばさんは騒ぎ続けたので、仕方なく警察に通報したが、パトカーが到着し降りて来るおまわりさんの姿を見ても、そのおばさんはひるむことなく、逆にそのおまわりさん相手に、近所迷惑だ、こいつらを逮捕しろなどと叫び続け、おまわりさんが、署で話を聞くからとそのおばさんを連れて行こうとしてくれたが、おばさんは抵抗して、私の家の前から動こうとはしなかった。しかも、おまわりさんが強引にパトカーに乗せようとすると、痴漢、触らないでと騒ぎ、おまわりさんが閉口していると、騒ぎを聞きつつけた近所の人たちで人垣ができていた。すると、その人垣を掻き分けて、一人の若い女性が「おかあさん!」と言いながら現れた。
「また騒ぎを起こして、ごめんなさいね」
その女性は、私とおまわりさんに頭を下げ、その女性を連れて行こうとした。
「だって、ここの家の犬が・・・」
「犬なんていないって、言ってるでしょ、また、お隣さんを引っ越しさせるつもり」
「また?」
私が首をひねると、その女性が簡単に説明してくれた。
「実は、前にこちらの家に住んでいた方にも、うちの母が犬がうるさいと何度も押し掛けて、こちらが慰謝料を払って、引越していただいたんです」
「前の住人にも同じようなことを?」
「はい、そうです」
なるほど、隣人トラブルで引っ越しして空き家になったから、格安の物件だったのか。
「とにかく、うちでは犬を飼っていませんので」
「はい、わかっています」
そう言って、娘さんは母親を家に連れて行った。
おまわりさんは、「また、何かありましたら、すぐ連絡してください、すぐ駆けつけますから」といってくれたが、本音は、もう呼んでほしくなさそうな雰囲気で、パトカーで帰って行った。
後日、親しくなった近所の人から、そのおばさん、最近、旦那に離婚されて、それで、ちょっとおかしくなったという。実は、犬を飼っていたのは、そのおばさんの家で、離婚した旦那さんが犬を引き取って去り、それ以来、近所に、旦那が、犬を連れて嫌がらせに来ているという妄言を吐きまくり、それが、隣の家の犬という風に変化して、いるはずのない犬の鳴き声が聞こえると騒ぐようになったらしい。で、結婚して近所に住んでいる娘さんが、離婚した母親が騒ぎを起こすたびに慰謝料を払うなどのフォローをしているそうだ。
だが、あの騒ぎ以降、私は、あのおばさんの姿をみなくなった。
たまに娘さんが来て、母親の家の掃除をしているようだが、やはり、あのおばさんの姿を見ない。なので、娘さんにあったとき、「こんにちは、おかあさんはお元気ですか」と声をかけた。
「え、母ですが、遠くの施設に預けました。安心してください。それと失礼ですが、本当にお宅は犬を飼ってないんですよね?」
「ええ、飼ってませんが?」
「ですよね、ここに犬なんて、いるわけないですよね」
そう念押しする娘さんの表情が、あのときのおばさんの顔に似ているような気がした。
おまけに、うちでは犬を飼っていない。だから、そう伝えたのだが嘘を付くなとそのおばさんは騒ぎ続けたので、仕方なく警察に通報したが、パトカーが到着し降りて来るおまわりさんの姿を見ても、そのおばさんはひるむことなく、逆にそのおまわりさん相手に、近所迷惑だ、こいつらを逮捕しろなどと叫び続け、おまわりさんが、署で話を聞くからとそのおばさんを連れて行こうとしてくれたが、おばさんは抵抗して、私の家の前から動こうとはしなかった。しかも、おまわりさんが強引にパトカーに乗せようとすると、痴漢、触らないでと騒ぎ、おまわりさんが閉口していると、騒ぎを聞きつつけた近所の人たちで人垣ができていた。すると、その人垣を掻き分けて、一人の若い女性が「おかあさん!」と言いながら現れた。
「また騒ぎを起こして、ごめんなさいね」
その女性は、私とおまわりさんに頭を下げ、その女性を連れて行こうとした。
「だって、ここの家の犬が・・・」
「犬なんていないって、言ってるでしょ、また、お隣さんを引っ越しさせるつもり」
「また?」
私が首をひねると、その女性が簡単に説明してくれた。
「実は、前にこちらの家に住んでいた方にも、うちの母が犬がうるさいと何度も押し掛けて、こちらが慰謝料を払って、引越していただいたんです」
「前の住人にも同じようなことを?」
「はい、そうです」
なるほど、隣人トラブルで引っ越しして空き家になったから、格安の物件だったのか。
「とにかく、うちでは犬を飼っていませんので」
「はい、わかっています」
そう言って、娘さんは母親を家に連れて行った。
おまわりさんは、「また、何かありましたら、すぐ連絡してください、すぐ駆けつけますから」といってくれたが、本音は、もう呼んでほしくなさそうな雰囲気で、パトカーで帰って行った。
後日、親しくなった近所の人から、そのおばさん、最近、旦那に離婚されて、それで、ちょっとおかしくなったという。実は、犬を飼っていたのは、そのおばさんの家で、離婚した旦那さんが犬を引き取って去り、それ以来、近所に、旦那が、犬を連れて嫌がらせに来ているという妄言を吐きまくり、それが、隣の家の犬という風に変化して、いるはずのない犬の鳴き声が聞こえると騒ぐようになったらしい。で、結婚して近所に住んでいる娘さんが、離婚した母親が騒ぎを起こすたびに慰謝料を払うなどのフォローをしているそうだ。
だが、あの騒ぎ以降、私は、あのおばさんの姿をみなくなった。
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「え、母ですが、遠くの施設に預けました。安心してください。それと失礼ですが、本当にお宅は犬を飼ってないんですよね?」
「ええ、飼ってませんが?」
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