怪異の忘れ物

木全伸治

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彼が殺人犯として捕まった

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私の遺体が川から発見され、付き合っていた彼が殺人犯として警察に捕まった。しかも、家宅捜索で、彼の部屋の浴室から私の血痕が見つかり、殺人の容疑が固まり、彼は殺人容疑で起訴された。
だが、彼は私を殺していない。別れ話を持ちだした彼を困らせるために、合鍵を持っていた私がこっそり彼の部屋の浴室に忍び込んで自分で手首を切って自殺し、大企業に就職して多少エリート意識のあった彼は、恋人が自分の部屋で自殺したなどという醜聞が近所に広まるのを恐れ、警察に通報せずに近くの川にこっそり私の遺体を遺棄したのだ。
ただ川に捨てただけだったので、私の遺体は無事に発見されたが、しばらく川の水に浸かったため肉がふやけて腐乱し、自殺が死因だとは、警察には分からず、ただ死亡推定時刻に彼が重いものを川に捨てたという目撃証言があって、それが決め手となり、警察は彼を殺人容疑で逮捕したのだ。
つかまった彼は、殺人の無罪を訴えなかった。恋人の遺体を川に捨てたのは事実だし、状況証拠的に殺人の無罪を訴えても誰も信じてくれないだろうと彼は判断して、殺人と死体遺棄の罪を背負った。
私は、彼を困らせたかったが、殺人犯にする気はなかった。だが、死人にできることは彼の枕元に立ってごめんなさいと謝ることだけだった。だが、私の姿は彼に見えたが、ごめんなさいという言葉は届かず、彼は私が恨んでいると思い込み、ノイローゼとなって自分で舌を嚙み切って自殺した。
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