怪異の忘れ物

木全伸治

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お薬ちょうだい

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そのドラックストアは、お薬だけではなく、お菓子やインスタント食品、お弁当など、コンビニ以上の品ぞろえで商品を売っていた。だから、別にお薬の知識がなくても、パートは務まるのだが、閉店時間ギリギリの暗くなってから「お薬ちょうだい、お薬ちょうだい」と毎日のようにやっているお客さんには辟易していた。
私はただのパートで、薬剤師の資格を持っているわけではないので、しつこく聞かれても困るのだ。だが、そのお客様は、いつも私に聞いてくる。どうやら私以外の店員には無視されるようだ。いや、無視ではなく、見えていないようだ。
それもそうで、そのお客さんの姿は、近所で交通事故に巻き込まれたのか、ひどいケガをしていて、首が普通ならありえない方向に曲がっていて、いまさら市販薬でどうにかできるレベルではないと、一目でわかった。だから、一度、店長に対応を代わってもらおうとしたが、店長も見えない人らしくて、「冗談はやめて」と言われ、仕方なく、私は、そのドラッグストアのパートをやめた。家から近くて、それほど忙しくないいい仕事だったのだが、あんな迷惑客が来る店では、働けない。いまも、あの迷惑客が来店しているのか、私は知らない。
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