怪異の忘れ物

木全伸治

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死んだ妻の声

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妻が急な事故で死んでしまった。
その日は、会社に出かけるとき、俺の給料が少ないと妻に文句を言われて、俺はついカッとなって口げんかをして家を出たのだが、その日、妻は夕飯の買い物に出かけたスーパーの駐車場で、運転操作を誤った車に轢かれて死んでしまったのだ。運転操作を誤ったのは高齢のお爺さんで助手席に妻を乗せて夫婦そろって買い物に来て事故を起こしたようだ。その夫婦は、病院に駆けつけた俺を見つけると、すぐに土下座して謝罪してきた。だが、謝罪しても、妻は助からず、妻の葬式にもその老夫婦は周りからの視線の痛さを感じつつも、きちんと主席して、喪主である俺に涙ながら頭を下げた。しかも、老後のために蓄えていた全財産を慰謝料として、俺に振り込んだ。なので、事故の裁判も、俺が多額の慰謝料を受け取っていることが考慮され、執行猶予付きの温情判決になったが、俺は文句は言わなかった。
その受け取った多額の慰謝料をある大学の研究室に持ち込んだ。そこでは、AIを使って人間の思考をトレースし、死んだ人間が何を考えていたかを再現するという研究が行われていた。そこに研究費を寄付する代わりに、死んだ妻の声を聞かせて欲しいと頼んだ。
「あんた、バカ。死んだ人間の声が聞きたいなんて悪趣味だと思うけど」
俺が依頼して再現されたAIの第一声は、あの朝、口げんかした時と同じように俺を煽るような声だった。
「な、なんだよ、お前が急に死ぬから、悪いんだろ」
「だから、死んだ人間の声なんか聞いてどうするの? 私は死んで、もうあなたの食事も作れない、あなたの子も産めない存在になったのよ」
「わ、悪かったよ、俺の給料が低くて。確かに、今の仕事の給料じゃ、子供なんか作ったら将来的に、大変だよな・・・」
「ごめんな・・・ふたりで、子供作って、育てたかったよな」
俺は、周りに研究員がいるのも気にせず妻の声を再現する目の前の機械たちに涙を流しながら謝っていた。
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