怪異の忘れ物

木全伸治

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人類の希望

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「ほら、私たちの子が旅立っていくわ、ちゃんと見送ってあげなくちゃ」
「俺たちの子といっても、受精卵で、僕たちの顔なんて知らずに行くんだぞ、いいのか」
そう。人類滅亡を回避する移民船の限られたスペースを有効活用するためその船に一般人で乗れたのは、まだ受精卵の状態の子供たちだけで、多くの大人たちが、この資源が枯渇した地球に取り残されることになった。
未知の新天地に行ける宇宙船に受精卵を乗せてもらえた俺たちは、まだましな方で、厳正な抽選で受精卵を乗せてもらえなかった家族もいる。そういう人たちとともに、この死に逝く地球と俺たちは運命を共にする予定だ。
親の顔も知らず、未開の惑星に送り込まれる我が子の運命を考えると空に向かって打ち上げられる宇宙船を、俺は見れなかった。この地球に残るよりも幸せな未来があるはずなのだが、確証はない。あの子の未来を地球に残る俺たちには確認しようもない。もしかしたら、未開惑星に送り込んだ俺たちのことを、あの子は恨むかもしれない。たとえ未来がないと分かっていても、この地球で最期まで家族で暮らした方が幸せなのかもしれない、親として、正しい選択をしたのか、正直、自信がなかった。
「ほら、あの子が行くわ」
俺の代わりに妻が、空に昇っていくそれを見守り続けた。

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