怪異の忘れ物

木全伸治

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3時の最終便

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3時に出発するシャトルが、地球を脱出する移民船に乗り込むための最後のシャトルだった。
その席を確保するため、俺は政府関係者という人脈と財産のほとんどを使い切った。
「くそ、どけ、どけ!」
俺は道路を塞ぐ、移民船に乗れなかった貧乏人の群衆たちにクラクションを鳴らした。だが、彼らは「我々も、宇宙船に乗せろ」とか、「せめてこの子だけでも」と喚き散らし、シャトルの待つ空港へ向かおうとする車の妨害を続けた。
「くそ、歩いていくぞ!」
俺は妻の手を取り、車から降りることにした。群衆の隙間を縫って歩いて行けばたどり着けるはずだと思って。だが、助手席の妻は首を横に振った。
「この人たちを置いて私たちだけ逃げだすなんて卑怯よ。それに、このチケット、強引に手に入れたんでしょ。そんなチケットで助かってもうれしくない」
妻の言う通り、俺は政府関係者という立場を利用して、民間に回すはずだった二席分を手に入れた。だが、民間の二人が助かるか、俺たち夫婦が助かるかの違いであって、助かる人数が変動するわけではない。
「今、シャトルに乗らなければ、俺たちは死ぬんだ。分かるだろ」
俺は強引にでも連れて行こうとしたが、向かおうとしていたシャトルの発着場の方で爆発が起きた。
たぶん、移民船のチケットを手に入れられなかった暴徒が、腹いせにシャトルを爆発したテロだろうと俺は理解し、車の中で茫然となった。騒いでいた群衆もシャトルの爆発に気づき、おとなしくなる。その隙に、俺は、来た道を戻った。家に戻るとすぐに、他のシャトルはないかと問い合わせたが、これ以上の被害を恐れて、移民船の出発が前倒しされ、地上から移民船に向かうシャトルも、もうないと伝えられた。衛星軌道上の移民船も爆破されたらたまらないということだろう。もうシャトルが出なければ、誰も衛星軌道上の移民船に手出しは出来ないというわけだ。
俺は絶望したが、妻は、地球に残された人々に団結を呼びかけて、かかる危機をみんなで乗り越えようと、どのような異常気象下でも人間が生存できる巨大地下シェルター都市の建造を促した。巨大な移民船建造のためにかなりの資材が投じられたが、地球上の資源の一切合切が使われたわけではなく、世界各地に、地球に残された人々の住むシェルター都市が造られた。
そして、地球の環境が、予定より早く元に戻ったとき、人々は地上に戻り、
地球を逃げ出した巨大移民船が事故で爆発し宇宙の藻屑となったことを知った。

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