怪異の忘れ物

木全伸治

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ロボット遊園地

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「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
その遊園地は、売店切符売り場などすべてのスタッフがリアルなロボットという触れ込みで開業し、最初は、多くの人を集めた。だが、人間そっくりなロボットが、人間よりも安価な労働力として当たり前のように日常で使われるようようになり、わざわざ遊園地に観に行かなくてもコンビニで、24時間働くロボットが見られるようになると、その遊園地の集客は落ち、閉園が決まるのも時代の流れだった。
だから、白髪のおっさんになっていたが、閉園する前にその思い出の遊園地にやってきてシューテイングのアトラクションに閉園時間まで挑戦しようとしていた。ガキの頃、家族と来て、その日の最高得点を出して、記念写真をもらったことがあり、再び、その記念写真をもらおうと、朝から頑張っていたのだが、ゲームの得意だった子供の頃から老いていたので、なかなか得点を出せずにいた。
「残り三回、がんばってください」
「おい、いいのかよ、もうすぐ閉園時間が来たら、ここは閉鎖されて、スクラップにされるんだろ」
愛想よくしているその受付のロボットに俺は思わずそう言った。
「ああ、お客様、閉園後の私たちの心配をしてくださるのですか。ありがとうございます。中古ロボットとして、再利用されると聞いております。ですから、私たちのことは気にせず、閉園時間まで存分に楽しんでください後三回は挑戦できると思います」
そして、結局高得点を上げられずに閉園時間が来て、アナウンスに急かされようにして俺は、その遊園地の出口に向かった。俺と同じような思いの人が多かったのか、閉園時間ギリギリまで残っていたお客は多く、その出口を出て行く人々に、園内中のロボットが集まって「本日は、ご来園まことにありがとうございました」と言って深々と頭を下げていた。俺には、ロボットたちが、「またのご来園お持ちしております」と続けて言いたそうにしている気がした。
それから十数年後、老いて退職して老人ホームに入居していた。
高齢であちこちガタがきて、三度ほど出術をして、無理矢理生かされていた。
手術後の後遺症で、寝たきり状態だった。だが、高齢者のために病院のベットは用意されず、老人ホームのベットに生命維持装置と一緒に固定され、それでも、身体を少しでも良くするため、ベットの上で毎日介護ロボットに補助されながら寝たままリハビリに励んでいたが、その日々に我慢できずに、つい「俺をもう殺してくれ」と思わずこぼした。すると、俺をマッサージしていた介護ロボットがスッと止まり、「そうですね、三回も手術したのなら、もう閉園時間ですよね」
その介護ロボットの外見は、安価な量産品であの遊園地のロボットのような表情はなかった。が、俺は、あの遊園地のロボットとどこか似ていると、その日、はじめて思った。
翌日、俺の生命維持装置は止まっていて、俺は死んだ。俺を介護していたロボットのせいかと疑われたが、人間に絶対服従するようプログラムされたロボットにそんなことができるわけがなく、ロボットのメモリーに残っていた「俺をもう殺してくれ」という俺の愚痴がメモリーとして残っていて、体の不自由な俺が自力で装置を止めたと結論付けられ、俺の葬儀と同じ頃、その中古介護ロボットは施設から気持ち悪いとして廃棄処分になった。

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