怪異の忘れ物

また会えたね、嬉しい

街中で、彼女の後ろ姿をみかけた。思わず追いかけたが、見失った。最初は、ただの見間違いだと思ったが、そんなことが何度も続き、俺は慌てて確認のため、あの山に向かった。舗装されていない山道を車で走らせて、人気のない山奥に辿り着く。数ヶ月ぶりだが、誰かが来た様子はなく、地面が掘り返された様子もない。
念のため、車からスコップを下し、地面を掘り始めた。ざっざっと土を掘り、穴を広げていく、何となく、あのとき、これくらい掘ったなと思い出していく、まず最初に彼女の手が見えた。色白く、腐臭もした。そこから慎重に土を払い、彼女の遺体を確認する。土の中で腐り、もっとひどい姿かと思ったが、意外に死体はまだ奇麗だった。
俺は彼女の死体に顔を近づけ、死臭を嗅ぎ、その冷たい腕を触って脈がないのを確認した。
この女は、結婚しようとうるさかった。彼女は三十手前で焦っていたのだろう、それが鬱陶しくて、つい殺して、こんな山奥に埋めてしまった。死体はここにある。
「なんだ、ちゃんと死んでるじゃないか」
俺はふぅとため息をついた、その瞬間、カッと彼女は目を開けて、起き上がり、俺に飛びつくように抱きついてきた。
「うわ、あ、ああ・・・」
俺は慌てて、彼女を引き離そうとしたが、死体のくせにすごい力だった。
そして、抱きつきながら俺の耳元で囁いた。
「また会えたね、嬉しい」
俺は彼女を引き離そうと必死だったが、俺は彼女の腕を振りほどけず、その穴の底で、彼女とずっと一緒になった。