怪異の忘れ物

木全伸治

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最後の殺人鬼

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最初、俺は強運だと喜んでいた。だが、ひとの姿を求めて地上をさまよっているうちに俺が殺せる人間が誰も生き残っていないことを思い知らされるだけで、その喜びもすぐに消えた。
街には、埋葬する人もなく、そのまま放置され、ミイラ化していたり、服と骨だけを残して骸骨となった遺体をいくつも見かけたが、それを土に埋める生きた人間は本当に誰も見かけなかった。なにか未知の疫病が蔓延したようだ。
まだ動くパソコンを見つけて、その中に残されていたニュース映像から、世界中がパンデミックで崩壊したと確信した。
俺は、自分の快楽のために多くの人を殺して捕まったのだが、別に人類憎しで人を殺していたわけではない。人が死ぬときの必死の表情を見ると、自分が、こいつの命を握っているという優越感が心地よかった。中には、命乞いのために、俺の靴を舐めそうなくらい、こびへつらったおっさんもいた。
そうしてたくさん殺した俺だが、当然、警察が必死になって探して俺を捕まえた。だが、俺があまりにも凶悪過ぎて、普通の刑務所では役不足ということで、俺は宇宙に試験用に打ち上げられた脱獄不可能という衛星軌道上の宇宙刑務所に収監された。
そこは、実験的に作られた監獄で、地上からの監視による完全ロボット制御で、囚人の俺しか存在しなかった。ちょっとでも壁に隙間を空ければ空気が漏れ出すので、脱出不可能な完璧な刑務所だった、だが、宇宙に囚人を運ぶのにコストがかかるということで、俺以降、そこに新しい囚人は送られてこなかった。その宇宙刑務所内は自由で、何をしても許された。が、何をしても怒られない代わりに何もなかった。たぶん、そこに俺を送り込んだ連中も、そこの退屈さで俺が頭がおかしくなって死んでくれたらいいと内心では思っていたかもしれない。
とにかく、宇宙に浮かぶなにもない地獄に放り込まれて、何もない日々を強制させられていた俺は、ある日、けたたましい警報を聞いた。なにが起きたのか最初はわからなかったが、独房の小さな窓から、ぐんぐん地球に向かって降下しているのに気づいた、理由は分からない。ただ、このままだと、地球に落ちて死ぬと思った。独房のカメラに向かって、俺は地上の連中に叫び続けた。地球に落下して、べチャリと潰れて死ぬのは嫌だったからだ。
しかし、宇宙刑務所は頑丈にできていた、いくら犯罪者を収監する施設でも、地球に落下する最悪の事故を事前に想定していたようだ。
地上にど派手なクレーターを作ったが、独房内には、エアバックが装備されていて、それが膨らんで、俺は助かった。
いくら頑丈とはいっても、ひとが抜け出せるぐらいの亀裂ができ、そこから外に這い出て、パトカーに囲まれる前に俺は逃げ出した。
それから、ひとを探して彷徨続けていた。だが、地上に生きている人はいなかった。
地上から宇宙刑務所を監視していた連中も死んで、そのために軌道を外れて地球に落ちてきたようだ。
「ゲホ、ゲホッ」
ここ数日、咳が出る。風邪のように体もだるい。俺も、謎の疫病にかかったようだ。
畜生、このまま疫病に大人しく殺されてやるかと、俺は、最期に、自分自身をナイフで刺して殺した。そりゃ、痛かったが、久しぶりに感じる人の肉を切り刻む感触が心地よかった。
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