怪異の忘れ物

木全伸治

文字の大きさ
上 下
50 / 241

死んでいるらしい

しおりを挟む
どうやら、俺は死んでいるらしい。
何となく、暑さ寒さを感じなくなり、ついに食べたものが上から下へ消化されずにそのまま出てきた。
感覚が鈍くなっているので、自分の脈が測れなかったが、心臓も完全に止まっているようだ。
頭はハッキリしているが、ここ最近の記憶が曖昧だ。鏡の中の自分の顔が、異様に青白い。会社を休もうかと思ったが、なぜ、自分が死んでいるのか分からない。何となく、自分が死に至った原因に未練があるから、まだ現世に留まっているような気がする。だから、俺は生きているふりを続けて、通勤電車に乗り、会社に行き、仕事をした。死んでいるのに何やってるんだろうと思うが、どうして、俺がこんな状態になったのか、気になって、このままでは死にきれない。
原因は、意外とあっけなく、分かった。会社帰りの駅で、偶然、恋人の由衣と出会ったからだ。普通の人間のように生きて動いている俺を見るなり、彼女は悲鳴を上げた。恋人に偶然出会ったら喜ぶところだろうに、と俺は呆れたが、同時に記憶が蘇った。この女は、俺の親友と浮気して、邪魔になった俺を殺して山に埋めたのだ。だが、蘇った俺は、町に戻り、動く死体として生きている人間を演じていた。たぶん、信じていた相手に裏切られて殺されたショックで忘れてしまっていたのだろう。脳細胞にうまく血が回らなくなって記憶をつかさどる細胞が、だいぶ壊死しているせいもあるかもしれない。とにかく、俺はすべてを思い出して、彼女に食らいついていた。なぜ、ゾンビが生きている人間を食らうのか分かった。死んでいるゾンビから見たら、生きているだけで食い殺したいほどの憎悪の対象だった。
もう、生きているふりをやめて、俺は彼女を食らった。そして、彼女もゾンビにして、俺を殺した共犯者であるまだ生きている親友を、二人で、噛み殺しに向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...