怪異の忘れ物

木全伸治

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夏の夜の定番

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夏休みの夜、男が集まって暇していると、大抵、誰かが、怖い場所へ行ってみないかと、夏の定番の肝試しを提案するものである。
肝試し、夏の風物詩といえる遊び。深夜、人気のない廃墟に勝手に忍び込む単純な行為だが、ほとんどお金を掛けず、誰でもお手軽に楽しめるので、この遊びは廃れていない。
その廃墟を管理している人に見つかれば、不法侵入として怒られるだろうが、たとえ見つかっても大した罪にはならない、せいぜい厳重注意ぐらいだと分かっているから、今でも誰かが続けている。
だから、その廃墟に皆を導くのは、簡単だった。ちょっといわくつきの廃墟を知っていると、さりげなく口にするだけで、皆簡単に食いついた。後は、みんなで車に乗り込んで、その廃墟に道案内するだけだ。俺はそこに到着するとわざとらしく、その廃墟は本当にやばいと一番ビビッて、さりげなく廃墟の中で皆とはぐれて一人だけ外に逃げ出す。あとは、廃墟の中にいるやばい奴にお任せで、朝になって、誰も廃墟から出てこないのを待ってから一人で車を運転して街に戻り、車を適当なところに放置して、知らん顔をする。
本当にやばいと分かっていて、そんな廃墟に案内するなんて、自分でもひどいことしているとは思う。だが、そうしなければ、廃墟のやばい奴が、廃墟から出て来て俺のところにやってきて俺を襲うのだ。
俺も最初は、友達の話に乗せられて、その廃墟に案内されて襲われる側だった。皆襲われ、命からがら逃げ出して俺だけが助かった。最初、自分は運が良かったとホッとした。だが、夢の中に奴が現れ、生贄を欲していると知り、俺は運が良かったわけではなく、新しい生贄をあそこに運んで来させるために見逃されたと知った。そういえば、あのときも知り合いになったばかりの奴が言い出しっぺであの廃墟に行ったんだと後になって気づいた。
そして、その怖い廃墟の噂がネットで続く限り、夏の肝試しがなくならない限り、俺が誰かを連れて行かなくても、あの廃墟の奴が飢えることはだろう。もし餌が少なくて、飢えているなら、もっと俺の夢に頻繁に出てくるはずである。出てこないということは、あんな交通の便が悪い場所に飢えない程度に餌が迷い込んでいるということだ。




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