怪異の忘れ物

雨音から逃げろ

「雨音から逃げろ」と誰かが叫んでいるのが聞こえた。が、意味が分からない。梅雨入り宣言した雨の中、傘をさして家に帰る途中だった。私は一緒に下校中だった友達と顔を見合せた。が、友達と目を合わせた瞬間、友達は悲鳴を上げる間もなく、地面に吸い込まれた。それは地面に溜まった足元の水たまりが、急に深い池になったような感じだった。
訳も分からず、驚きながら、底なしの水たまりに落ちていく友達の顔を見た。
ハッと慌てて助けようと手を向けるが、友達を飲み込んだ水たまりの底は浅く、濡れるのも構わずしゃがみ込んでバチャバチャと、水たまりに手を突っ込むが、やはり、人間一人が入れるような底はなかった。
ふと気が付けば、下校時間で同じように下校途中の学生が同じ歩道にいたはずなのに、周りから人気がなくなっていた。
　私は雨音から逃れるため、学校に急いで戻り、部活で使用中だった音楽室に逃げ込んだ。もちろん、防音完備の音楽室に逃げ込む前に職員室の先生たちに水たまりの中に人が消えたと話したが、誰も信じてくれなかった。
助かったのは、音楽室で部活の練習をしていた吹奏楽部の生徒と、雨音がやばいと気づいて音楽室に駆け込んできた数名の生徒だけだった。
私たちが安全に外に出れたのは、夜になって雨が止んでからだった。もちろんニュースになったが、消えた人がどこに行ったのか不明だった。
その日何人消えたのか、なにが原因かも分からず、まだ梅雨は始まったばかりで、明日の天気は雨の予報だった。