怪異の忘れ物

木全伸治

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雨音注意報

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コンビニでバイト中、スマフォが鳴って画面を見ると、天気を確認するために入れていたアプリからこの辺りに雨音注意報が発令されたというメッセージが届いていた。本来バイト中にスマフォを見るのは厳禁だが、今日はワンオペで、お客さんもいない時間帯だった。
「雨音注意報?」
そんなもの聞いたことがなかったので、ゲリラ豪華かなにか、そういうものだと思った。だが、ゲリラ豪雨があってもシフトが終わる頃には、雨は通り過ぎているかもと、楽観していた。
いくら記録的豪雨があっても、この店の近くに川はないので、帰るタイミングで降りださなければ問題はないと思っていた。
品出しもひと段落して、ぼんやりとレジに立っていた。今日はワンオペだが、この時間は暇なのでバイトひとりでも充分だった
それは突然、滝の中にいるような轟音で、
「な?」と最初は驚いたが、店内にいる限り、濡れることもない。
だが、外にいた人たちが急な雨から逃れるようにコンビニ店内に駆け込んできた。しかも、慌てて店内に逃げ込んできたおっさんのひとりが、レジにいた俺に、
「自動ドアのかぎを掛けろ。急いで入り口を塞げ」
と、慌てていった。
「え? どうしたんですか、お客さん」
二十四時間営業を売りにしているコンビニが、こんな明るい時間に店を閉めることはできない。無茶な注文だと呆れるが、おっさんは真剣に叫んでいた。
「いいから、はやく閉めろ、奴らが来る!」
俺にはおっさんが何を慌てているのか分からず、当然自動ドアを閉めようともしなかった。
だが、ふと、ガラス張りの自動ドアの向こう側に、雨に追い立てられるように無数の人影が見えた。
「なんだ?」
亡者だった。大量の雨に濡れながら、水死体のように服をボロボロにしたバケモノが多数迫って来ていた。
それを見て、俺はおっさんを見捨てるように、店の奥の控室のロッカーにひとり逃げ込んだ。ホラー映画が好きで、たくさん見ていたから咄嗟にそんな行動ができたと思う。
雨音に混じっておっさんたちの悲鳴を聞いたような気がしたが、雨音が収まりロッカーを出ると、そのコンビニで生き残ったのは俺だけだった。
津波、船の事故、溺れて死ぬなど、水に関わって死ぬ人は多い。それらが集まって豪雨に紛れて、生きている人間を妬みで襲うという怪奇現象が近年観測されていたが、怨霊だとか祟りとか科学的に認めるわけにはいかず、とりあえず、そういう怪しい豪雨が起きそうなとき、はっきり怨霊注意とはせず「雨音注意報」として、政府が人々に注意を促すようにしていると、ネットの妖しい掲示板の書き込みで後から詳細を知った。
コンビニの店内の床はベタベタになっていたが、あの騒いでいたおっさんなど、雨から逃れるように店に飛び込んできた人の姿は、雨音が消えると同時にいなくなっていた。店長やオーナーに伝えても信じてもらえないだろうと思い、俺はひとりモップで床の汚れを拭いて、次のシフトの子と黙って交代して家に帰った。
帰り際に、一応、「雨音注意報には気をつけろよ」と忠告しておいた。



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