怪異の忘れ物

木全伸治

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怖がりな幽霊

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不幸な死に目に会って死んだ亡者は、生きている人間を呪わないといけないらしい。だからと言って、人気のない、いかにも何か出そうな廃墟にずっと黙って誰かがやって来るのをじっと待っていなければならないなんて、ガチガチのビビリの私には無理だった。不幸にして殺されて生者を憎むべき怨霊になったからと言って、ビビリで怖がりな性格まで都合よく変わるわけではないようだった。
むしろ、死んだばかりの私の正常な思考回路の一部は、いまさら生者を妬んだところで何の得もないと合理的な考えをしていた。殺された自分にも殺されるべき落ち度があったように思ってしまう。そう、亡者になったからと言って、絶対に生者を恨まなければならないとは考えられなかったのだ。
それよりも、あの世への行き方を模索して、今すぐに転生して、新しい生を謳歌する方法を見つける方が建設的ではないかと。でも、死んで時間が経って自我の薄れた他の亡者たちを説得するのは難しかった。だからと言って、他の亡者を真似て生者を妬むことができず、私は今日も独り、廃墟をさ迷っていた。たまに配信目的で廃墟巡りをする若者たちに出会い、つい人恋しくて、近付いてしまうが、亡者が近寄っても生者と話ができるわけもなく、ただ相手を驚かせてしまい、ひとを呪う怨霊と勘違いされて悲鳴を上げられ、その叫びにこっちもビビッて騒ぎを起こしてしまっていた。つまり、ビビリの幽霊である私は人を脅かす気はなくても、つい怖がらせてしまい、人恋しくて近付いた無害な幽霊もこの世にはいるということを私は多くの人に伝えたくて、ドキドキしながら慎重に近づいてみたこともあるが生者には私の姿が「恨めしや」と叫んでいる亡霊にしかどうしても見えないようだ。
やれやれ、こっちは、人恋しいだけなのに。
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